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簡易安定化電源の製作
本ページ掲載。(2023/05/19)
概要
ツェナー・ダイオードによるシャント・レギュレータです。
能動素子(トランジスタやFET)は使用していないので、性能はよくありません。(^^;
あまり電圧精度が必要ないような実験や装置で使うことを想定していますが
効率が悪いことと、放熱器は取り付けたくなかったので、出力電流は小さめにしました。
それでも小型のリレー2個くらいはドライブ出来るように100[mA]を取り出せる
仕様としました。
仕様
- 出力電圧: 5V、10V、15V(それぞれ、おおよその電圧です。)
10V、15V、GNDの端子はケース裏面にも取り付けました。
5V端子は前面のみです。
- 出力電流:100mA (max、各電圧端子からの合計)
- ツェナーダイオードによるシャント・レギュレータ
- 出力短絡に対応
実験用電源なので、出力を誤ってGNDに短絡してしまう危険があります。
この場合でも、部品が焼損しないか検討します。
外観
- 前面パネル

- 後面パネル

電源コードの引き込み穴に取り付けるブッシュは、
いつもはゴム製を使用していますが、今回、ネジ止めタイプが
手に入ったので使用して見ました。
ブロック図

ブロック毎の動作
電子回路の教科書にも載っていそうな典型的な構成で、(^^;
とくに目新しい点はありません。唯一工夫したのは、シャントレギュレータの部分で、
複数の電圧(15V、10V、5V)を取り出せるようにしたところです。
- 変圧
商用のAC100Vを電源トランスにより必要な電圧まで降圧します。
具体的なトランスの2次側電圧は、出力電圧から算出した必要電圧と
入手可能なトランスの仕様から設計にて決定します。
- 整流
交流をブリッジ構成のダイオードにより整流して直流に変換します。
なお、整流回路の次に平滑回路が接続されているため
実際の回路では脈流の波形を見ることは出来ません。
ブリッジ型整流回路の詳細動作は
こちらを、
また平滑しない場合の実際の動作波形はこちらの実験
を参照してください。
- 平滑
整流しただけでは、脈流となって完全な直流とはならないので、
コンデンサーにより整流された脈流を直流に変換します。
ただ平滑コンデンサーだけでは完全な直流にすることはできず
わずかに交流成分が残ってしまいます。これをリプルといいます。
リプルについての詳細は
こちらを、
リプル含有率についての実験は
こちらを参照してください。
- 安定化(シャントレギュレータ)
下図がシャント・レギュレータの原理です。
ツェナーダイオードに逆方向電圧を印加した場合、一定の電圧となることから
負荷抵抗(RL)をツェナーダイオードと並列に接続すると、負荷電流(Io)が変動しても
負荷抵抗の電圧(Vo)が一定となります。このような定電圧電源をシャント・
レギュレータと言います。

シャントレギュレータの動作の詳細については
こちらを、
シャントレギュレータの実験については
こちらを参照してください。
下図はブロック図と回路図との対応を示します。(LEDはブロック図では省略)

回路図
設計
- 電源トランス(Power Transformer)の選定
抵抗器R1での電圧降下を3V、整流器での電圧降下を2Vと見込こむと、
必要となるトランス二次側交流の最大値は20[V]です。
実効値としては20/√2=14.1[V]必要です。
このため、トランスの二次側電圧としては15〜20[V]のものを物色しました。
平滑回路以降の電流ですが、電源装置の出力電流を最大100[mA]、
ツェナーダイオードの最低電流を10m[A]、LEDの消費電流を5[mA]とすれば
合計115[mA]となります。
トランスの定格電流は、この3倍程度を目安に選定しましたが、
あまり大きな電流容量になると、予定しているケースに入らない恐れも
出てきます。
以上の条件から東栄変成器のJ-1603を選定しました。(秋葉原のガードレール下で購入)
二次側の電圧は16[V]、電流は0.3[A]です。
なお、二次側0-16V端子間の巻線抵抗(Rs)はテスターでの実測の結果、3.0[Ω]でした。

- 平滑回路
平滑回路の実験結果から、リプル含有率は
1%くらいが相場(?)のように見えます。
平滑コンデンサーからみた等価的な負荷抵抗RLは、
出力電圧15V、出力電流を0.115Aとすれば
RL = 15[V]/0.115[A] ≒ 130[Ω]となるのでリプル含有率の計算式
γ = 1/(2f * C * RL)
を変形してCの値を計算すると
C = 1/(2f * γ * RL) = 1/(2 * 50 * 0.01 * 130) ≒ 7700μF
ですが、E-6系列だと6800μFあたりとなり、少し大きい気がします。
そもそも平滑コンデンサーだけでリプル含有率を小さくすることに無理があると思われ、
もっとリプル含有率を小さくしたいのであれば、トランジスタを使用した回路とすべきでしょう。
今回は、平滑回路の後のシャント・レギュレータでもリプルの量が減ると期待できるので、
平滑回路でのリプル含有率は1〜5%くらいになれば良いだろうと考えました。
この結果、平滑コンデンサーの容量は 2200[μF]
とすることにしました。
このときのリプル含有率は、
γ = 1/(2f * C * RL) = 1/(2 * 50 * 0.002 * 130) ≒ 3.8%
となります。
- 整流回路
安価なブリッジダイオードが手に入る昨今、わざわざ半波整流を
選択する理由はないので、リプル含有率的にも有利なダイオードブリッジによる
全波整流方式とします。以下、ダイオードに要求される仕様について検討します。
- 逆耐圧(VR)
必要な逆方向の耐圧は以下の式で与えられます。
VR=Vac(rms) × √2= 16 × √2 ≒ 22.6[V]
- 定格電流(IF(AV))
整流回路の負荷として流れる平均電流(IDC)は、
IDC = 115[mA]
なので、ダイオードに流れる平均電流IF(AV)は
IF(AV) = IDC/2 = 57.5[mA]
ですが、実際は、出力端子を誤短絡したときに最大電流が流れるので
後述するようにIF(AV) = IDC(short)/2 = 404[mA] / 2 = 202[mA]
が要求仕様となります。
- 定常ピーク電流
等価的な負荷抵抗RLは15[V]/115[mA] ≒ 130[Ω]です。
平滑コンデンサーの容量は2200[μR]と決めたので、そうすると
・全波整流回路の場合
Rs/2RL = 3.0/2/130 ≒ 0.012 = 1.2%
2ωCRL = 2*2*π*50*2200E-6*130 ≒ 180
となるので、O.H.Schadeのグラフから
ダイオードのピーク電流VF(peak)を読み取ると、
平均電流:IF(AV)の約9.5倍ですので、
IF(peak) = IF(AV) * 9.5 = 202 * 9.5 ≒ 1,919[mA]

- 突入電流I(sarge)
以下の式で与えられます。
I(sarge) = Vi(max) /Rs = Vac(rms) *√2 / Rs = 16 * √2 / 3.0 ≒ 7.5[A]
これらの条件を満たすものを、秋月で販売しているブリッジ・ダイオードから
探した結果、AM1510を選定しました。
要求仕様と候補デバイスの仕様の比較を下記の表に示します。
(参考に手元にあるブリッジではない整流ダイオード:1N4007 の仕様も併記しました。)
項目 |
記号 |
単位 |
判定値(設計値) (min) |
AM1510 |
1N4007 |
仕様 |
判定 |
仕様 |
判定 |
最大逆方向電圧 |
VR | V |
22.6 |
1000 |
OK |
50 |
OK |
平均電流 |
IF(AV) | A |
0.202 |
1.5 |
OK |
1.0 |
OK |
定常ピーク電流 |
IFRM |
A |
1.919 |
50 |
OK |
規定なし |
NG(*1) |
サージ電流 |
Isarge |
A |
7.5 |
50 |
OK |
30 |
OK |
判定欄はいずれも、「判定値<仕様」ならOKとした(マージンを考慮していない)。
(*1)規定はないが、平均電流の仕様が判定値以上なのでNGとした。(たぶん問題ないと思うが)
- シャントレギュレーター回路

- R1の選定
ツェナー・ダイオードによる定電圧電源の
実験(シャント・レギュレータの実験)から
ツェナー・ダイオードには最大負荷の際にも
最低10[mA]程度電流を流しておく必要があります。
過負荷でなければ、定格出力電流の100[mA]とツェナーダイオードに流す
最低電流の10[mA]、それとLEDの電流5[mA]の合計: 115[mA]がR1に流れます。
トランスの二次側定格電圧(rms)として16Vのものを採用したので、
最大値が16×√2≒22.6[V]の直流が得られるものと概算しました。
(トランスの電圧変動を無視しています。)
そうすると、抵抗器R1での電圧降下は7.6(=22.6-15)[V]となるので
R1 = 7.6[V]/115[mA] ≒ 66[Ω]
E-12系列から選定し56[Ω]としました。
必要な電力定格は以降の過電流制限で検討します。
- ツェナーダイオード(ZD1, ZD2, ZD3)の選定
ツェナーダイオードは5.1Vタイプのものを3個直列にして使用します。
許容電力Pは無負荷時に流れる電流が115[mA]となるので、
P = 5.1[V]×115[mA] ≒ 0.59[W]
しかし、実際には後述するように出力端子を誤短絡した場合の方が大きな電流が
流れるので、10V端子をグランドに短絡した際にZD1に流れる電流:313[mA]が
最大となります。このときの消費電力は
P = 5.1[V]×313[mA] ≒ 1.6[W]
結果としてツェナーダイオードの実験
にも使用した1N5338B(定格電力:5[W])を
使用します。
- ノイズ対策用コンデンサー
ツェナー・ダイオードはノイズを発生すると言われており、ノイズ低減のために
ツェナー・ダイオードと並列にコンデンサーを接続している例を見かけます。
この場合10〜33[μF]程度が相場(?)のようです。
今回、ツェナー・ダイオードのノイズをオシロで観測したところ、
とくに目立ったノイズ波形は見られませんでした。
(ホワイト・ノイズのはずなのでそもそも観測は難しいかもしれませんが。)
また、10〜33[μF]のコンデンサーを接続すると、後述のように
出力端子短絡時に、ツェナー・ダイオードに大きな放電電流が流れる恐れが
あるようなので、ノイズ対策用コンデンサーは止めることにしました。

- LED、R2
出力端子の5[V]から電流を取り出します。
ここLEDを接続すると、5V、10V、15Vのいずれの端子を誤って短絡した場合でも、
LEDが完全に消灯するので、短絡が発生したことに早く気付けることも期待しました。
LEDに赤色を採用した場合、LEDに流す電流は5〜10mAが適当な値となります。
(LEDの静特性測定と点灯の実験については、こちら
を参照してください。)
電流制限抵抗のR2の値ですが、LEDの電圧降下を2Vと見込み、LEDに5[mA]の
電流を流すとすれば
R3 = (5[V] - 2[V])/0.005[A] = 600[Ω]
となるので、E-6系列から選定すると470[Ω]か680[Ω]となりますが
今回は470[Ω]としました。この場合のLED電流は3[V]/470[Ω] = 6.4[mA]となります。
- 過電流制限
出力端子を誤ってグランドに短絡してしまった場合、
過電流で抵抗R1やツェナーダイオードが焼損しないかを検討します。
- 15V端子短絡時
平滑回路の直流電圧を22.6[V]とすれば、15[V]の出力端子をGNDに短絡した場合
流れる電流は22.6[V]/56[Ω] ≒ 404[mA]です。(トランスの容量を超えますが)
このとき、R1の消費電力はPは
P = 22.6[V] * 0.404[A] ≒ 9.1[W]
となります。今回はセメント抵抗の10[W]タイプを採用します。
ツェナーダイオードには電流はながれません。LEDは消灯します。

- 10V端子を短絡時
R1の消費電力は15V端子短絡時より小さくなるので問題ありません。
ZD1には短絡電流が流れます。
その最大値は(22.6[V]-5.1[V])/56 ≒ 313[mA]となり、ZD1の消費電力Pは
P = 5.1[V] * 0.313 ≒ 1.6[W]
となるので、ツェナー・ダイオードの最大定格(5W)に収まります。
ツェナーダイオードZD2, ZD3には電流は流れません。LEDは消灯します。

- 5V端子を短絡時
R1の消費電力は15V端子短絡時より小さくなるので問題ありません。
ZD1とZD2には短絡電流が流れます。
その最大値は(22.6[V]-5.1[V] * 2)/56 ≒ 221[mA]となり、
ZD1とZD2の消費電力Pは、どちらも
P = 5.1[V] * 0.221 ≒ 1.1[W]
となるので、ツェナー・ダイオードの最大定格(5W)に収まります。
ツェナーダイオードZD3には電流は流れません。LEDは消灯します。

使用部品
- 変圧器
東栄変成器:J-1603(2次側:0-10-12-14-16V, 0.3A)
- ブリッジ・ダイオード
AM1510
- 電解コンデンサー
2200μF
- ツェナーダイオード
1N5338B × 3
- 抵抗器
56Ω 10W (セメント抵抗)
470Ω 1/4W P型カーボン
- LED
まとめ買いの型式不明品(赤)
- ケース
タカチ:CU-13 (120W 75H 140D)
- ジョンソン・ターミナル
赤×5、黒×2
- ヒューズ・ホルダー、ヒューズ(0.1A)
- トグル・スイッチ
- その他
電源コード、電源コード用ブッシュ
ユニバーサル基板、基板取付用スペーサー
ハトメ(基板に取り付けて配線を引き出す端子にする)、ワイヤーなど
製作
ケースは手元にあったタカチCU-13を使用しました。今はCU-13Nになっていると
思いますが、違いは判りません。(^^;
- 前面寸法

- 裏面寸法

- 基板とケース内配線
写真左側が前面パネルです。
基板は秋月電子のユニバーサル基板:Bタイプ(95×72mm)を使用しました。
配線の引き出しのためにハトメを打ちました。

動作確認
- 配線を確認します。
- ヒューズ・ホルダーにヒューズを実装します。
- 電源スイッチをOFF側に設定します。
- ACプラグをコンセントに差し込みます。
- 電源スイッチをONにします。
- LEDが点灯することを確認します。
- 各出力端子の電圧をテスターで確認します。
15V端子、10V端子、5V端子でそれぞれだいたい(?!)の電圧が出ていれば
OKです。
- 特性測定
- 出力特性
手元にあった抵抗器を負荷として適当につないで、出力電圧と出力電流の関係を
測定しました。
平滑コンデンサーのところの直流電圧を測定したところ20.3Vしかありませでした。
ダイオードの電圧降下が2Vくらいあり無視出来ないようです。
設計段階では最高値を22.6V(=16×√2)と計算したので、少なからず誤差となりました。
このためか、負荷電流が80[mA]を超えたあたりから電圧降下が大きくなり始めます。
流石に短絡試験は怖くて出来なかったのですが、いずれの端子も20[Ω]を接続すると
LEDの消灯が確認出来ました。
・15V端子

・10V端子

・5V端子

- リプル含有率
平滑コンデンサーのところのリプルを測定したところ300mVppほどありました。

50mV/div
リプル含有率は300[mV]/20.3[V]≒1.5%なので、計算値(3.8%)より少し良い値です。
また、15V端子でのリプルはだいたい10mVppでした。
リプル含有率は10[mV]/14.67[V]≒0.07%となり概ね満足の出来るレベルに
なったかと思います。

10mV/div
条件は少し違うのですが、データシートによるとツェナー・ダイオードの
等価直列抵抗(ZR)は1.5[Ω](IZT=240mA)ですので、
交流的な等価回路は下図のようになると思います。

儼r=150[mV]でしたので
儼o = 儼r * (1.5 * 3) / { (1.5 * 3) + 56} ≒ 22.3[mV]
となることから、実測値よりやや大きい値です。
以上から、シャント・レギュレータによりリプル含有率が1桁程度改善することが判りました。
(R1が大きい程改善する。このためにはトランスの二次側電圧を大きくする必要がある。)
関連項目
- 関連図

- 電子回路−
ブリッジ整流回路の動作
- 電源回路の実験−整流回路の実験
- 電子回路−
平滑回路(コンデンサー入力形)の動作
- 電源回路の実験−
平滑回路(コンデンサー入力形)の実験
- 電子回路−
ツェナーダイオードによる定電圧電源回路
- 電源回路の実験−
ツェナーダイオードによる電源安定化の実験
- ダイオードの基本特性の測定実験−
LEDの静特性測定(ディジタル・テスターによる)
- ダイオードの基本特性の測定実験−
LEDの静特性測定(直流電位差計による)
今後の課題
- ヒューズの選定方法の調査
参考文献
- とくになし。
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