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平滑回路の実験
本ページ完成。(2023/04/24)
実験の目的
コンデンサ入力形の平滑回路について、平滑回路の時定数を変えたとき
リプル波形がどのように変化するかを確認します。
実験は半波整流回路とブリッジ型全波整流回路のそれぞれについて
平滑回路のコンデンサーの値を変えて、リプル波形とリプル含有率を測定します。
実験課題
- 半波整流回路と平滑回路におけるリプルの観測
- ブリッジ型全波整流回路と平滑回路におけるリプルの観測
回路図
- 半波整流回路と平滑回路におけるリプルの観測

- ブリッジ型全波整流回路と平滑回路におけるリプルの観測

回路の動作
整流回路では、変圧器で変圧した交流電圧をダイオードで整流し、
直流に変換します。
整流しただけでは脈流(Vi)であり、多くの交流成分を含むので、平滑回路により
より直流に近い電圧波形に変換します。本実験では最もよく使用される
コンデンサー入力形の平滑回路について実験します。
・半波整流回路の機能(☆)

・全波整流回路の機能(☆)

(☆)平滑回路を接続した状態では、脈流(Vi)の波形は観測出来ません。
脈流(Vi)の波形を観測するための実験については整流回路の実験
を参照してください。
しかし平滑回路を通しても交流成分は多少残ってしまいます。
残存する交流成分は平滑回路のコンデンサーの容量、負荷電流、
交流電源の周波数で決まります。

残存する交流分の割合はリプル含有率で表します。
本実験で使用するリプル含有率γは下記の定義とします。
γ = リプル電圧のpeak-to-peak値/直流分(平均値)
コンデンサー入力形平滑回路のリプル含有率は以下の式で計算します。
・半波整流回路では
γ = 1/(f * C * RL)
・全波整流回路では
γ = 1/(2f * C * RL)
実験回路の設計
- 変圧器の選定
通常は電源回路の仕様から変圧器(トランス)を選定することになりますが、
今回の実験では手持ちのトランス・ボックス
を使用するため、変圧器の
仕様から逆に実現可能な電源回路の仕様を決定します。
今回使用する変圧器の仕様は下記となります。
- 変圧器の二次側定格電圧(Vac):0-6.3[V]-12[V]
- 変圧器の二次側定格電流(Iac):0.3[A]
- 変圧器の二次側直流内部抵抗(Rs)
0V-6.3V間: 2.9[Ω]
0V-12V間: 5.5[Ω]
変圧器の内部抵抗はテスターにて測定しました。
この後のダイオードの選定のところで述べますが、
ダイオードの逆方向耐圧の関係で、今回は変圧器の6.3V端子を使用します。
- 負荷抵抗(RL)の選定
直流出力電圧(VDC)の最大値の概算は6.3[V]×√2≒8.9[V]です。
(変圧器の6.3Vは定格電流取り出し時の値なので、
電流が小さいと電圧はわずかに大きくなるかもしれません。)
今回の実験の目的から、変圧器の最大仕様の電流を取り出す必要がないことと、
大電流を取り出すとダイオードや負荷抵抗に許容電力が大きいものが必要となり、
新規に購入する必要があることから、手持ちの部品が使用できるよう
出力電流(IDC)は小さめに設定します。
結果として、負荷抵抗は1kΩとしました。
負荷抵抗に流れる電流は8.9[V]/1[kΩ]=8.9[mA]
消費電力は8.9[V]×8.9[mA]≒0.079[W]
となるので、1/4WのP型カーボン抵抗で十分です。
- 平滑コンデンサーの選定(リプル含有率の計算)
リプル含有率は、半波整流の場合、1%、2%、5%、10%、20%となるように
平滑コンデンサーの値を決めます。
今回の実験では、リプル電圧の測定は実効値ではなく、測定が容易な
peak-to-peakで測定しますので、半波整流の場合、
リプル含有率(γ)の理論値は以下の式で計算されます。
γ = 1/(f * C * RL)
この式を変形してCの式に直すと
C = 1/(f * γ * RL)
f = 50[Hz]、RL = 1[kΩ]として、リプル電圧毎にCの値を計算すると、
(1)リプル含有率:1%のとき
C = 1/(50 * 0.01 * 1000) = 0.002 ≒ 2200[μF]
(2)リプル含有率:2%のとき
C = 1/(50 * 0.02 * 1000) = 0.001 = 1000[μF]
(3)リプル含有率:5%のとき
C = 1/(50 * 0.05 * 1000) = 0.0004 ≒ 470[μF]
(4)リプル含有率:10%のとき
C = 1/(50 * 0.1 * 1000) = 0.0002 ≒ 220[μF]
(5)リプル含有率:20%のとき
C = 1/(50 * 0.2 * 1000) = 0.0001 = 100[μF]
となります。
それぞれ必要な耐圧は8.9[V]の2倍は欲しいので、25[V]以上のものを使用します。
なお、ブリッジによる整流回路でも同じ定数のコンデンサーを使用します。
この場合、リプル含有率は、半波整流の半分の値になります。
必要なコンデンサーの値と実際に入手出来る値に少し差があるので
改めてリプル含有率の式 γ = 1/(f * C * RL) からリプル率を計算すると
以下の表になります。
コンデンサーの容量 |
リプル率(半波整流) |
リプル率(全波整流) |
100μF |
20% |
10% |
220μF |
9.1% |
4.5% |
470μF |
4.3% |
2.1% |
1000μF |
2.0% |
1.0% |
2200μF |
0.91% |
0.45% |
- ダイオードの選定
ダイオードに要求される仕様を検討します。
- 逆耐圧(VR)
・半波整流回路:
VR=Vac(rms) × 2√2= 6.3 × 2√2 ≒ 17.8[V]
・ブリッジ整流回路:
VR=Vac(rms) × √2= 12 × √2 ≒ 8.9[V]
半波整流回路の方が大きいので、17.8[V]以上の耐圧が必要です。
- 定格電流(IF)
負荷抵抗RLに流れる平均電流(Io)は、
Io = VDC(平均電圧)/RL = 8.9/1000 = 8.9[mA]
ダイオードに流れる平均電流IF(AV)は
・半波整流回路:
IF(AV) = Io = 8.9[mA]
・ブリッジ整流回路:
IF(AV) = Io/2 = 4.5[mA]
半波整流回路の方が大きいので、8.9[mA]以上の定格が必要です。
- 定常ピーク電流
以下の計算において、コンデンサーの値は大きい方が条件が厳しいので
C=2200[μF]で計算を進めます。
・半波整流回路の場合
Rs/RL = 2.9/1000 = 0.0029 ≒ 0.3%
ωCRL = 2*π*50*2200E-6*1000 ≒ 691
O.H.Schadeのグラフよりダイオードピーク電流IF(peak)は
平均電流:IF(AV)の約15倍ですので、
IF(peak) = IF(AV) * 15 = 8.9 * 15 = 133.5[mA]

・全波整流回路の場合
Rs/2RL = 2.9/2/1000 = 0.0015 ≒ 0.15%
2ωCRL = 2*2*π*50*2200E-6*1000 ≒ 1382
O.H.Schadeのグラフからははみ出してしまいますが、グラフの右端では
グラフの線がほぼ水平ですので2ωCRL = 1000のところで
ダイオードのピーク電流VF(peak)を読み取ると、だいたい
平均電流:IF(AV)の約19倍ですので、
IF(peak) = IF(AV) * 19 = 4.5 * 19 = 85.5[mA]

以上より、半波整流の方が条件が厳しいので、判定値としては
133.5[mA]を使用します。
- 突入電流I(sarge)
以下の式で与えられます。
I(sarge) = Vi(max) /Rs = Vac(rms) *√2 / Rs = 6.3 * √2 / 2.9 ≒ 3.07[A]
手元にあるBAT43と1N4007の2種類のダイオードについて、要求仕様を満たすか
どうかを纏めたのが下記の表になります。
項目 |
記号 |
単位 |
判定値(設計値) (min) |
BAT43 |
1N4007 |
仕様 |
判定 |
仕様 |
判定 |
最大逆方向電圧 |
VR | V |
17.8 |
30 |
OK |
50 |
OK |
平均電流 |
IF(AV) | mA |
8.9 |
200 |
OK |
1000 |
OK |
定常ピーク電流 |
IFRM |
mA |
133.5 |
500 |
OK |
規定なし |
OK(*1) |
サージ電流 |
Isarge |
A |
3.07 |
4 |
OK |
30 |
OK |
判定欄はいずれも、「判定値<仕様」ならOKとした(つまりマージンを考慮していない)。
(*1)規定はないが、平均電流の仕様が判定値以上なのでOKとした。
以上の検討結果から、BAT43も1N4007も、どちらも使用出来ることが判りました。
BAT43はサージ電流のマージンが少し小さいかもしれませんが、
今回は製作済の実験器具であるダイオード・ブリッジ・ボックス
を使用したかったので、
BAT43を使用することにします。
(実際に電源を製作するなら、迷うことなく1N4007を使用すべきでしょう)
実験方法
(1)半波整流回路と平滑回路におけるリプルの観測
(2)ブリッジ型全波整流回路と平滑回路におけるリプルの観測
のいずれにおいても実験手順は同じとなります。
- 回路を組立ます。
アナログ直流電圧計のレンジは10V端子を使用します。
半波整流回路の場合、ダイオード・ボックスは下図のように使用します。

- トランス・ボックスの電源スイッチをONにします。
- オシロスコープで波形を確認し、波形を写真に撮ります。
写真をとるときのオシロスコープの縦軸は200mV/divで統一します。
- オシロスコープでリプル電圧のピークtoピークを読み取ります。
このとき波形が小さいならオシロの電圧レンジを拡大します。
- アナログ電圧計で直流の平均電圧を読み取ります。
- トランス・ボックスの電源スイッチをOFFにします。
平滑コンデンサーの容量を変更し、手順の2.から繰り返します。
実験機材
- トランス・ボックス
- ダイオード・ブリッジ・ボックス
- アナログ直流電圧計
- 固定抵抗器:1kΩ 1/4W
- 電解コンデンサー:100μF、220μF、470μF、1000μF、2200μF
電解コンデンサーはいずれも新品を使用しました。

470μFのみBP(バイポーラ:無極性電解)ですが、たまたま購入したもので、
とくに意味はありません。(^^;
実験結果・考察
オシロスコープの写真波形の縦軸は、いずれも200mV/div。
- 半波整流回路と平滑回路におけるリプルの観測
コンデンサー 容量 |
リプル電圧pp (測定値) |
直流電圧平均値 (測定値) |
リプル含有率 (測定値) |
リプル含有率 (計算値) |
備考 |
100μF |
1300mV |
8.6V |
15% |
20% |
|
220μF |
680mV |
8.8V |
7.7% |
9.1% |
|
470μF |
280mV |
8.8V |
3.2% |
4.3% |
|
1000μF |
160mV |
8.8V |
2.0% |
2.0% |
|
2200μF |
90mV |
8.8V |
0.91% |
0.91% |
|

100μF |
220μF |
470μF |
1000μF |
2200μF |
 |
 |
 |
 |
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- ブリッジ型全波整流回路と平滑回路におけるリプルの観測
コンデンサー 容量 |
リプル電圧pp (測定値) |
直流電圧平均値 (測定値) |
リプル含有率 (測定値) |
リプル含有率 (計算値) |
備考 |
100μF |
740mV |
8.8V |
8.4% |
10% |
|
220μF |
400mV |
8.8V |
4.5% |
4.5% |
|
470μF |
190mV |
8.8V |
2.2% |
2.1% |
|
1000μF |
100mV |
8.8V |
1.1% |
1.0% |
|
2200μF |
40mV |
8.8V |
0.45% |
0.45% |
|

100μF |
220μF |
470μF |
1000μF |
2200μF |
 |
 |
 |
 |
 |
- 考察
- 半波整流の場合、リプル含有率が2%以下では計算値と測定値はよく一致しました。
また、全波整流の場合、リプル含有率が5%以下では計算値と測定値はよく一致しました。
リプル含有率が大きくなると、計算値と測定値の差が広がりますが
測定値の方が計算値より小さいので、リプル含有率の式で計算すれば
必要なリプル電圧以下に抑えることが出来ることが判りました。
- 全波整流の波形が交流の半周期毎に対称性が若干くずれています。
ブリッジを構成する4本のダイオードの特性のバラつきに起因するものと
推定しますが、平滑コンデンサーの値が大きくなるとバラツキの絶対値も
小さくなることから、ダイオードの順方向電圧の単純なバラつきでは
ないかもしれません。メカニズムは将来の課題としました。
一応、計算値と測定値はよく一致することから、とりあえず気にする必要は
ないものと判断しました。
- 実験では電解コンデンサーは新品を使用しましたが、心配した電解コンデンサーの
容量のバラつきの影響は感じられませんでした。(意外と少ないと推定)
電解コンデンサーのドライアップによる容量の減少がどれくらい効いてくるかは
今回は考察しませんでした。信頼性の問題として将来の課題とします。
今後の課題
- 回路シミュレータによるシミュレーション
- ブリッジ・ダイオードの特性のバラつきの影響
- 電解コンデンサーのドライアップの影響
参考文献
- とくになし。
関連項目
- 電子回路-整流回路の動作
- 電源回路の実験-整流回路の実験
- 電子回路-平滑回路(コンデンサー入力)の動作
- 電子回路-整流用ダイオードの逆耐圧と電流
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