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カレント・スイッチの実験


本ページ作成。(2025/09/28)
  1. 実験の目的

  2. カレント・スイッチの実験回路を設計し、実際に回路を組み立て動作を確認します。
    動作確認は、まずカレント・スイッチの入出力静特性を測定し、次に正弦波を入力して
    出力波形を観察します。波形観測では参照電圧を変化させ、出力波形がどのように
    変化するかも観察します。

  3. 実験課題

  4. 下記の項目について測定を行い、設計値と測定値を比較します。

    1. 入出力静特性測定
    2. 波形確認

  5. 実験回路



  6. 回路の動作

  7. カレント・スイッチは 差動増幅回路を使った比較器の一種です。
    ふたつある入力(Vi1、Vi2)の一方に参照電圧を設定し、他方の入力が
    参照電圧を横切る度に出力のHigh/Lowレベルが変化します。
    出力もふたつ(Vo1、Vo2)ありますが、ふたつの出力は同じ波形で位相が
    180°ずれています。出力は必ずしも両方使う必要はありません。
    ふたつあるトランジスタのエミッタ端子は共通になっています。

    抵抗REは定電流源にする方が性能がよくなりますが、今回は抵抗のままで実験します。 
    電源はプラスマイナスの電源にした方が、バイアス回路が簡単になるので、電池を使用して
    マイナス側電源としました。このためプラス側とマイナス側とで電源電圧が異なりますが
    その前提でバイアス設計すれば支障はありません。
    カレント・スイッチの詳細な動作は こちらを参照してください。

  8. 実験回路の設計

  9. 与えられた設計条件により設計の手順は変わってくると思われます。

    1. 設計条件
    2. (1)使用するトランジスターはTr1、Tr2とも2SC1815のYランク。
      (2)電源電圧は+10[V]、-6[V]とします。
        マイナス側のみ電池を使うことにしました。
        どちらかと言えばマイナス側電源を高くした方がREの値を
        大きくして定電流源に近づけられるのですが、今回は乾電池の
        6[V]をマイナス側としました。
      (3)出力電圧の振幅: 8[V]程度
      (4)入力電圧: 2[Vp-p]の正弦波交流。
      (5)入力側(信号源)の出力インピーダンスは600[Ω]
       (これは発振器の出力インピーダンスです)

    3. 入力電圧

    4. 出力電圧

    5. RC1、RC2の選定

    6. REの選定

  10. 実験方法


    1. 電子ブロックの配置
    2. 電子ブロックで実験回路を下図のように組み立てます。


    3. 入出力静特性の測定
      vi2はグランド(GND)に接続します。
      vi1は下図のように抵抗器を接続し、-0.5[V]〜+0.5[V]の直流電圧を印加します。
      可変抵抗器の5[kΩ]はmV単位の電圧設定が容易なので ケルビン・バーレー・
      ポテンショメータ
      を使用しました。


      (1)vi1にディジタル・テスタ(直流電圧)を接続し、ケルビン・
        バーレー・ポテンショメータを調整しvb1を設定します。
      (2)ディジタル・テスタでvo1とvo2を測定します。

      (3)vi1の設定を-0.5[V]〜+0.5[V]まで変えながら(1)〜(2)の手順を繰り返します。

    4. 正弦波入力に対する出力波形の観察
      以下の手順において交流電圧計とは、 テスターアダプタアナログ直流電圧計 のことです。

      Vi1は低周波発振器を接続します。
      低周波発振器に並列接続した10[kΩ]は、発振器の出力が直流的に浮いているので
      Vi1のバイアス電流を流し電位を確定する目的です。
      (約80[mV]の電圧が発生します。)
      Vi2は下図のように抵抗器を接続し、-1.5[V]〜+1.3[V]の直流電圧を印加します。
      可変抵抗器の5[kΩ]はmV単位の電圧設定が容易なので ケルビン・バーレー・
      ポテンショメータ
      を使用しました。


      (1)Vi1に低周波発振器(1k[Hz])を接続します。
      (2)Vi1に交流電圧計を接続し、peak to peakモードで2.0[V]になるよう
        低周波発振器の出力レベルを調整します。
      (3)Vi2にディジタル・テスタ(直流電圧)を接続します。
      (4)ディジタル・テスタを見ながらケルビン・バーレー・ポテンショメータを調整し
       Vi2の参照電圧を設定します。
      (5)オシロスコープで出力波形Vo1とVo2を観測します。

      (6)Vi2を-1.5[V]〜1.3[V]まで0.5[V]おきに設定を変えながら(4)〜(5)の
       手順を繰り返します。(ただし、プラス側は最大1.3[V])

  11. 実験機材

    1. 電子ブロック
    2. 可変抵抗器(5kΩB)
    3. (端子1-3を使用し5kΩの固定抵抗として使用)
    4. ケルビン・バーレー・ポテンショメータ
    5. 低周波発振器
    6. テスターアダプタ
    7. アナログ直流電圧計
    8. 簡易安定化電源 (10[V]端子)
    9. 乾電池:1.5[V]×4
    10. ディジタル・テスター
    11. オシロスコープ

  12. 実験結果

    1. 入出力静特性の測定
    2. 下図にに測定結果を示します。


    3. 波形観測
    4. 全体的にVc2の方がきれいな矩形波になりました。
      Vi1入力
      電圧
      Vi2入力
      電圧[V]
      出力(Vo1波形) 出力(Vo2波形) 備考
      2[Vp-p]
      (正弦波)
      -1.5

      Vo1はLowレベル
      だが、3Vp-p程度の
      正弦波が漏れている
      -1.0

      -0.5

      写真傾いてしまった(-_-;
      0.0

      Vo2の時間軸
      拡大波形は表の下
      +0.5
      少しピンボケ(-_-;

      +1.0

      +1.34

      上:Vi1、1V/div、0.5ms/div、0[V]はほぼ波形の中央
      下:Vo1またはVo2、5V/div、0.5ms/div

    5. 拡大観測
      1. vb2=0[V]のときのVc2の時間軸拡大波形

      2. 上:Vi1、1V/div、50μs/div
        下:Vo2、5V/div、50μs/div

      3. (参考)トランジスタ・スイッチの波形
      4. トランジスタ・スイッチの実験より引用。
        立上がり、立ち下がり時間の比較をしたかったが、スイング幅が違うので
        直接の比較は出来ない。

        上:入力正弦波、1V/div、50μs/div
        下:出力矩形波、2V/div、50μs/div

  13. 測定結果・考察

    1. 入出力静特性の測定
    2. Vi1とVi2の差が−0.1[V]〜0.1[V]の範囲ではふたつのトランジスタが
      ともに能動領域となってスイッチとして使用するには適当でないことが判りました。
      よってカレント・スイッチとして使用する場合、Vi1とVi2の差は少なくとも
      0.3〜0.4[V]必要であることが確認出来ました。

    3. 波形観測
    4. (1)参照電圧(Vi2)により、カレント・スイッチが切り替わる電圧を
       可変出来ることが確認出来ました。
      (2)Vo1とVo2は逆位相ですが、Vo2の方がきれいな
       矩形波であることが判りました。
       波形の差が発生するメカニズムはよく判りませんでした。今後の課題です。
      (3)立上がり時間・立ち下がり時間が早いかどうかは今回よく判りませんでした。
       (使用したオシロスコープの帯域は30MHz)

  14. 今後の課題

    1. REを定電流源に置換えて、今回の実験結果と比較する。
    2. Vo1とVo2の波形の違いを考察する。

  15. 参考文献

    1. 2SC1815データシート
    2. パルス回路の設計(昭和56年(1981) 第20版(改訂10版)) P-72〜76 カレント・スイッチ、猪飼國夫著、 CQ出版社
    3. ディジタル回路(1988 第1版) P-89〜92 電流切換形回路、川又晃著、オーム社
    4. はじめてのトランジスタ回路設計(1999 初版) P113-118 3石で組むOPアンプ、黒田徹著、CQ出版社

  16. 関連項目

    1. トランジスタ増幅回路の解析−差動増幅回路の解析
    2. トランジスタ増幅回路の実験− 差動増幅回路の実験(1)
    3. トランジスタ・パルス回路の解析− カレント・スイッチ
    4. 抵抗器に関する情報−E6系列
    5. 自作電子ブロック
    6. ケルビン・バーレー・ポテンショメータ
    7. 低周波発振器
    8. 簡易安定化電源
    9. テスターアダプタ
    10. アナログ直流電圧計
    11. 可変抵抗器(5kΩB)


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