JH8CHUのホームページ> FETデバイス実験 >ソース接地増幅回路(交流負帰還あり)の実験

ソース接地増幅回路(交流負帰還あり)の実験


本ページ作成。(2024/02/29: うるう日じゃ)
  1. 実験の目的

  2. 自己バイアスをかけたFET増幅器において、ソース抵抗(RS)に
    並列に接続するバイパス・コンデンサを無くすと、交流的に負帰還をかける
    ことが出来ます。ここでは、負帰還の量を変化させることにより、
    増幅回路の入力インピーダンス、出力インピーダンス、増幅度が
    どのように変化するかを実験で確認し、理論(設計値)と比較します。

  3. 実験課題

  4. 下記の項目について測定を行い、設計値と測定値を比較します。
    1. 直流動作点
    2. 電圧増幅度
    3. 出力インピーダンス
    4. 入力インピーダンス

    実験に使用するFETは、N-チャネルタイプの2SK2881-Dを使います。
    本来であれば、静特性測定の実験と、交流負帰還なしソース接地増幅回路の
    実験に用いた、2SK2880-Dを使用したかったのですが、相互コンダクタンスが
    小さく、本実験にはあまり適当ではないようなので、異なる型式のFETを
    用いることとしました。

  5. 実験回路

  6. 実験回路を下図に示します。
    出力側に接続した抵抗器:RLは、出力電圧の直流レベルを確定するために
    接続しました。この抵抗がないと、電源投入時、出力コンデンサ:Coの電荷が0であるため、
    出力波形の直流レベルが浮き上がることから、オシロスコープで波形を見る場合見づらいです。
    今回は交流信号に対してRL接続の影響が出ないように、RL >> RDとなる
    値を選定しました。

     

  7. 回路の動作

    FETに(近似的な)線形動作をさせるためには、まず バイアス電圧をかけ
    動作点を決めます。 バイアス回路は自己バイアス回路を用いており、
    バイアス点を安定化しています。



    交流負帰還をかけない場合は、ソース抵抗(RS)と並列にバイパス・コンデンサ (CS)を
    接続しますが(詳細はソース共通増幅回路(交流負帰還なし) を参照してください。)、
    本回路ではバイパス・コンデンサ(CS)を接続しません。
    そうすると、入力信号viは、ゲート〜ソース間電圧vgsとソース抵抗Rsの両端の交流電圧(vs)との
    和になります。また、FETではゲート(G)端子に電流は流れないので、ドレイン電流の変化(id)は
    ソース電流の変化(is)と等しくなります。

    ここで、viが変化するとviの変化によりvgsが変化します。
    vgsの変化はidの変化となりRsの両端の電圧変化(vs)となります。
    この変化(vs)は、ゲート〜ソース間の電圧vgsを打ち消す方向となるため、
    vgsはviより(id*Rs)の分小さくなり負帰還となります。

  8. 実験回路の設計

    1. 設計条件
        (1)電源(VDD)は10Vとします。
        (2)FETは2SK2881のDランクを使う。(データシートよりIDSS=2.5〜6.0[mA])
         設計にあたってはIDSS = 4.0[mA]で計算します。
        (3)ドレイン電流(ID)はIDSSの1/2に設定する。 よってID = 2.0[mA]
        (4)ドレイン〜ソース間電圧VDS: 5[V] (=VDDの1/2)
        (5)増幅する周波数帯域の最低周波数は50Hz
        (6)入力側(信号源)の出力インピーダンスは130[Ω]
        (7)出力側(負荷)の入力インピーダンスは1MΩ


    2. バイアス回路の設計
    3. 増幅回路の等価回路
    4. 交流の等価回路ではカップリング・コンデンサのCi、Coは短絡して考えます。
      増幅する周波数帯ではコンデンサのリアクタンスが十分小さくなるように値を決めるため、
      交流的には短絡して考えるのですが、その値を決めるためには、
      入力インピーダンスの計算が必要なので、手順が前後するように見えますが、まず、
      増幅回路の等価回路から3個のコンデンサCi、Co、を短絡した下図の
      等価回路で考えます。FETはソース接地の 小信号簡略等価回路に置き換え、
      また、VDDとグランド(GND)も交流的には同電位なので接続してあります。




    5. 入力インピーダンスの計算
    6. 等価回路から入力インピーダンス(Zi)は
      Zi = RG = 1[MΩ]

      となります。

    7. 出力インピーダンスの計算
    8. 制御電流源の内部抵抗は無限大なので、
      等価回路から出力インピーダンス(Zo)は
      Zo = RD = 2.2[kΩ]

      となります。

    9. 電圧増幅度の計算
    10. 増幅回路の電圧増幅度をAvとすれば次の式で与えられます。
      Av = −gm * (RD//RL) /( 1 + gm * Rs) ・・・・・・(*1)

      今回は、RD << RL
      に設定しているので、この式は
      Av = −gm * RD /( 1 + gm * Rs)

      となります。また、gmの値は
      gm ≒ 0.7 * yfs

      の式から計算します。そうすると、
      gm ≒ 0.7 * 15[mS] = 10.5[mS]

      Rs = 141[Ω]の場合について計算すると、
      Av = −10.5[mS] * 2.2[kΩ] /( 1 + 10.5[mS] * 141) ≒ −9.3

      以下、RS(AC)を変えた場合についてAvを計算すると、
      RS(AC) 0 [Ω]47 [Ω] 94 [Ω]141 [Ω]
      計算式(*1) -23.1-15.5 -11.6-9.3
      概算式(参考) -46.8 -23.4-15.6
      RS(AC) = 0 [Ω] とは要するに交流負帰還なしの回路です。

      概算式は、次の式で計算した場合です。
      Av = −RD/Rs


    11. コンデンサーの容量の決定
  9. 実験方法


    1. 電子ブロックの配置
      47[Ω]×3のブロックは変則的で、他に使い道がなさそうですが
      やむをえないので今回の実験用に新規で製作しました。
      クリップ線は、ミノムシ・クリップで47[Ω]×3の抵抗器のところを
      繋ぎ変えます。


    2. 直流動作点の測定
      ディジタルテスターの直流電圧測定レンジで、下図に示すように VDD、VD、VDS、VS
      VG、VGSを測定します。 IDはVDとRDの値から ID=VD/RDの式により求めます。
      また、電源電圧VDDも正確に10.0[V]ではないので、測定しておきます。


    3. 電圧増幅度の測定
      増幅回路における電圧増幅度の簡易測定法によります。

      (1)下図の測定回路を組立てます。


      (2)viの値を読みます。
      または、vsの値を読み取り、分圧器による分圧比をかけて、viとします。
      分圧比は今回の回路では、は130/33600となります。
      (3)voの値を読みます。
      (5)viの値とvoの値から電圧増幅度Av=vo/viを求めます。

    4. 入力インピーダンスの測定
      増幅回路における入力インピーダンスの簡易測定法によります。

      (1)下図の測定回路を組立てます。


      (2)VRを0[Ω]の状態にしてvoの値を読み取ります。
       この時のvoの読みをvo0とします。
      (3)voの値が1/2*vo0となるようにVRを調整します。
      (4)VRを回路から外し、テスターの抵抗レンジでVRの値を読み取ります。
       この時のVRの値がZiとなります。

    5. 出力インピーダンスの測定
      増幅回路における出力インピーダンスの簡易測定法によります。

      (1)下図の測定回路を組立てます。


      (2)SWを開放の状態にしてvoの値を読み取ります。
       この時のvoの読みをvo0とします。
      (3)SWを閉じて(短絡)からvoの値が1/2*vo0となるようにVRを調整します。
      (4)VRを回路から外し、テスターの抵抗レンジでVRの値を読み取ります。
       この時のVRの値がZoとなります。

      なお、SWについては、実際は配線を取り外すことにより解放しました。

  10. 実験機材

    1. 自作電子ブロック
    2. 簡易安定化電源 (10[V]端子)
    3. ディジタル・テスター
    4. トランス・ボックス
    5. 分圧器
    6. 可変抵抗器(5kΩB)
    7. 可変抵抗器(1MΩB)

  11. 実験結果

    1. 直流動作点の測定
      下図に測定結果を示します。
      白色の吹き出しで計算値、黄色の吹き出しで測定値を表しました。
      VGはなるべく抵抗の近くで図ります。グランドの位置が悪いと、
      実験回路の共通インピーダンス(別途記述予定)により若干の電圧が
      発生することがあります。


    2. 電圧増幅度の測定
      viの値はディジタル・テスターで直接測定しました。
      また、Av = |- vo/vi| です(Av > 0で表示しました)。
      viの値 [mV] RS [Ω] voの値 [mV] Av(測定値) Av(設計値) Av(概算設計値) 備考
      24 141 222 9.25 9.3 15.6  
      94 272 11.33 11.6 23.4  
      47 353 14.71 15.5 46.8  
      0 502 20.92 23.1  




    3. 入力インピーダンスの測定
      RS [Ω] voの値 [mV] vo/2の値 [mV] Zi [kΩ]
      (測定値)
      Zi [kΩ]
      (設計値)
      備考
      141 222 111 97.4 100  
      94 271 135 92.4 100  
      47 353 176 92.4 100  
      0 502 251 92.3 100  




    4. 出力インピーダンスの測定
      RS [Ω] voの値 [mV] vo/2の値 [mV] Zo [Ω]
      (測定値)
      Zo [Ω]
      (設計値)
      備考
      141 222 111 2205 2200  
      94 272 136 2205 2200  
      47 353 176 2205 2200  
      0 502 251 2205 2200  



  12. 考察

    1. 直流動作点
      ドレイン電流IDが設計値の2[mA]より約40%小さく、素子のバラつきにしては
      大きいような気がします。
      交流負帰還なしソース接地増幅回路の実験に用いた2SK2880-Dと比較すると
      データシート上、ドレイン電流IDSSのランクは同じですが(2.5〜6.0[mA])、
      相互コンダクタンス(yfs)は、
      2SK2880-Dでは3.0[mS](typ)
      2SK2881-Dでは15.0[mS](typ)
      となっています。VGS−ID静特性曲線で考えると、 相互コンダクタンス(yfs)が
      大きくなる程、|Vp|は小さくなりそうです。(yfsはVGS = 0に おけるグラフの傾きです。)
      Vpをデータシートで比較すると
      2SK2880-Dでは-1.5[V](typ)
      2SK2881-Dでは-0.1〜-3.0[V](typ)
      となっているので、今回Vp=-1.5[V]で設計したのが、誤差の最大の原因のようです。

      とは言え、Vp = -0.1〜-3.0[V](typ)というのは、どのように考えればよいのでしょうか?(-_-?
      目安としては、yfsが5倍なら、Vpは1/5として0.3[V]と見積もると
      RS ≒ 0.6 * |Vp/IDSS| = 0.6 * |-0.3/0.004| = 45[Ω]
      となります。ためしにRS = 47[Ω]としてみたところ
      VS = 0.91[V]、ID = 1.88[mA]となったことから、
      Vpは0.3[V]あたりと思われます。(静特性を計るとよいのですが・・・)

    2. 増幅度
      交流負帰還がかかっていない状態(Rs=0[Ω])では、設計値と測定値との差は10%近く
      ありましたが、交流負帰還量を大きくする程(RS(AC)を大きくするほど)、
      設計値と測定値との差が小さくなることが確認出来き、設計式(*1)が実用になることが判りました。

      一方、概算設計値は、誤差が大きすぎて(3倍程度)実用的ではないことが確認出来ました。
      これは、概算設計の式が成り立つ条件である、gm * Rs >> 1が今回の回路では
      成り立っていないからです。
      例えばRs = 141[Ω]の場合、gm * Rs = 10.5[mS] * 2200 = 1.4805となり
      gm * Rs >> 1の条件が明らかに成り立っていません。

    3. 入力インピーダンス
      設計値と測定値との差は3%から8%であり、固定抵抗(RG)の誤差(5%)よりも
      やや大きくなりましたが、ノイズの影響やVRの読取り精度などの影響が考えられ
      設計上問題ない範囲と考えます。

    4. 出力インピーダンス
      設計値と測定値との差はほとんどなく、また固定抵抗(RD)の誤差(5%)よりも
      小さいので設計通りの結果と考えます。

  13. 今後の課題

    1. 周波数特性の測定
      周波数特性は増幅回路の基本的な特性のひとつですが、今回の実験では
      信号源として発振器ではなく、トランス・ボックスを使用する方針としたので
      周波数特性の測定は断念しました。

    2. ひずみ率の測定
      用途によってはひずみ率も重要な特性ですが、ひずみ率計が手元にないため
      将来の課題としました。

  14. 参考文献

    1. 簡明電子回路入門(1993 第8刷) 第8章FET、矢部初男著、槇書店
    2. 2SK2881データシート

  15. 関連項目

    1. 電子回路−接合型FET
    2. FET増幅回路の設計− 自己バイアス回路の設計
    3. 電子回路− 接合型FETのソース接地増幅回路(交流負帰還あり)
    4. 自作計測回路−電圧増幅度の簡易測定法
    5. 自作計測回路−入力インピーダンスの簡易測定法
    6. 自作計測回路−出力インピーダンスの簡易測定法
    7. 自作電子ブロック
    8. 簡易安定化電源 (10[V]端子)
    9. トランス・ボックス
    10. 分圧器
    11. 可変抵抗器(5kΩB)


JH8CHUのホームページ> FETのデバイス実験> ソース接地増幅回路(交流負帰還あり)の実験


Copyright (C)2024 Masahiro.Matsuda(JH8CHU), all rights reserved.