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エミッタ接地増幅回路(交流負帰還あり)の実験
デジタルテスターによる
本ページ作成(2015/04/06)
出力コンデンサ(Co)の設計の計算式を修正しました。(2024/09/28)
実験の目的
電流帰還バイアスをかけたトランジスタ増幅器において、エミッタ抵抗(RE)に
並列に接続するバイパス・コンデンサを無くすと、交流的に負帰還をかける
ことが出来ます。ここでは、負帰還の量を変化させることにより、
増幅回路の入力インピーダンス、出力インピーダンス、増幅度が
どのように変化するか理論と実験で確認します。
実験課題
下記の項目について測定を行い、設計値と測定値を比較します。
増幅度については、負帰還の量を変化させ、増幅度との関係を調べます。
- 増幅度
- 入力インピーダンス
- 出力インピーダンス
実験回路
実験回路を下図に示します。
出力側に接続した抵抗器:RLは、出力電圧の直流レベルを確定するために
接続しました。この抵抗がないと、電源投入時、出力コンデンサ:Coの電荷が0で
あるため、Coの両端の電圧が0となり、出力波形の直流レベルが浮き上がります。
交流信号に対してRL接続の影響が出ないように、RL >> Rcとなる
値を選定しました。
また、回路設計の中で出てくるRE(AC)は抵抗REのタップの中の
バイパス・コンデンサCEを接続した点とトランジスタのエミッタ端子間の抵抗値を
示します。(すなわち、交流に対するREの値です)

回路の動作
電流帰還バイアスをかけたトランジスタ増幅器において、エミッタ抵抗REに
並列に接続するバイパス・コンデンサを無くすと、エミッタ電流icの変化により
エミッタ抵抗(RE)の両端に、
ve = ie * RE = (hfe+1) * ib * RE
となる交流電圧veが発生します。
もし、エミッタ抵抗REと並列にハイパス・コンデンサが接続させていればve=0となり、
負帰還はかかりません。
ベース〜エミッタ間の電圧は直流的に約0.7Vの差であるため
エミッタに交流電圧veが発生すると、この交流電圧の変化は同時に
ベース電圧の変化をもたらし、その方向はベース電流の変化を妨げる
方向であるため、結果、負帰還として動作します。

実験回路の設計
- 設計条件
(1)電源は乾電池1.5V×4本=6Vとします。
(2)コレクター電流:Ic=1mA
(3)エミッタ抵抗REの両端の電圧:VE=1V
(4)コレクタ抵抗Rcの両端の電圧:Vc=2.5V
(5)トランジスタは2SC1815のYランクを使う(データシートよりhFE=120〜240)
(6)増幅する周波数帯域の最低周波数は50Hz
(7)入力側(信号源)の出力インピーダンスは0[Ω] (実験では10[Ω])
(8)出力側(負荷)の入力インピーダンスは∞。(Co計算時は1kと仮定)
- バイアス回路の設計
バイアス回路の設計手順については、
負帰還のないエミッタ接地増幅回路と
同じであるため、ここでは省略しますが、REの値が1.1kΩ(= 220×5本)となり
わずかに異なるため、改めて各部の電圧・電流を計算すると、
結果は下記となります。
V1 = R2/(R1 + R2) * Vcc = 22[kΩ]/(47[kΩ] + 22[kΩ]) * 6[V] ≒ 1.9[V]
VE = V2 - VBE = 1.9[V] - 0.7[V] = 1.2[V]
IE = VBE/RE = 1.2[V]/1.1[kΩ] = 1.1[mA]
Ic ≒ IE = 1.1[mA]
Vc = Rc * Ic = 2.2[kΩ] * 1.1[mA] ≒ 2.4[V]
VCE = Vcc - Vc - VE = 6 - 2.4 - 1.2 = 2.4[V]

- 増幅回路の等価回路
交流の等価回路ではカップリング・コンデンサのCi、Coは
短絡して考えます。増幅する周波数帯ではコンデンサのリアクタンスが十分小さく
なるように値を決めるため、交流的には短絡して考えるのですが、
その値を決めるためには、入力インピーダンスの計算が必要なので、
手順が前後するように見えますが、まず、増幅回路の等価回路から
2個のコンデンサCi、Coを短絡した下図の等価回路で考えます。
トランジスタはエミッタ接地の
小信号簡略等価回路に置き換え、
また、Vccとグランド(GND)も交流的には同電位なので接続してあります。

計算にあたってhieの値が必要になりますが、
概算式である
hie = β/(40 * Ic)
の式を用います。
バイアス回路の設計の項で記述したように、今回の実験回路では、Ic =1.1[mA]です。
また、本実験に使用するトランジスタのβは
静特性の測定実験で測定した値を
使用すると175になりますので
hie = β/(40 * Ic) = 175/(40 * 0.0011)
∴hie=3977[Ω]
となります。
- 入力インピーダンスの計算
まず、トランジスタのベースから右側を見たときの入力インピーダンスRiを
計算します。Riの値は等価回路から
Ri = vi/ib = hie + RE * (hfe + 1)
= 3977 + 1100 * (175 + 1)
≒ 197.6[kΩ]
ちなみに、
hie << RE * (hfe + 1)
としてRi = RE * hfeの式で概算すると
Ri = 1100 * 175 = 192.5[kΩ]
なので実用上、十分な近似となります。
このRiを使用すると、Ziは
Zi = R1//R2//Ri
= 47k // 22k // 197.6k
∴Zi = 13.9[kΩ]
となります。
本実験においては小信号(AC)に対するRi(AC)を220、440、660、880、1100
と変化させることにより、負帰還量を変えながら測定します。
以下、RE(AC)を変えた場合についてZiを計算すると、
RE(AC)
| 220 | 440
| 660 | 880
| 1100 |
精密な計算式
| 11.1k | 12.7k
| 13.3k | 13.7k
| 13.9k |
概算式
| 10.8k | 12.6k
| 13.3k | 13.7k
| 13.9k |
- 出力インピーダンスの計算
制御電流源のインピーダンスは無限大であるため、等価回路より、
Zo = Rc = 2200[Ω]
となります。
- 増幅度の計算
RE(AC)=1100[Ω]の場合について計算します。
精密な計算式を用いて計算すると
Av = - Rc/{1/(40 * Ic) + RE}
= - 2200/{1/(40 * 0.0011) + 1100}
∴Av = - 1.96
概略の式を用いて計算すると
Av = - Rc/RE
= - 2200/1100
∴Av = - 2
以下、RE(AC)を変えた場合についてAvを計算すると、
RE(AC)
| 220 | 440
| 660 | 880
| 1100 |
精密な計算式
| -9.06 | -4.75
| -3.22 | -2.44
| -1.96 |
概算式
| -10 | -5
| -3.3 | -2.5
| -2 |
- コンデンサの容量の決定
(1)実験回路の等価回路
トランジスタをエミッタ接地の
小信号簡略等価回路に置き換え、
また、VccとGNDは交流的には同電位であることから接続してしまうと
実験回路の小信号等価回路は下図のようになります。

(2)入力コンデンサ(Ci)
入力コンデンサCiの影響がないように定数を決定します。
R1、R2、Riの並列回路の合成抵抗をZiとします。すなわち
Zi = R1//R2//Ri
とすれば、ZiとCiはローカット・フィルター(Low Cut Filer)を構成するため
Ciの値が小さいと増幅する周波数帯域の低域側で増幅度が
低下してしまいます。この影響をなくすためには、
フィルタのカットオフ周波数が信号の最低周波数より
十分小さくなるようにCiを決定します。

このローカット・フィルターのカットオフ周波数fciは、
fci = 1/(2π * Ci * Zi)
となりますので、信号の最低周波数をfslとすれば
fsl >> fci
となるようにCiを決定すればよいことになります。よって
fsl >> 1/(2π * Ci * Zi)
∴Ci >> 1/(2π * fsl * Zi)
本実験においては、RE(AC)を可変しながら測定しますが
RE(AC)=0のときに最もfciが高くなります。
これは、負帰還がないのと同じ状態なので、Ri=hie=3977[Ω]として計算すると
Zi = R1//R2//hie = 47k//22k//3.977k = 3144[Ω]
入力信号の最低周波数(fsl)を50[Hz]でしたので、
Ci >> 1/(2π * fsl * R) = 1/(2π * 50 * 3144) ≒ 1.01[μF]
電解コンデンサは経年変化により静電容量が減少しますので、
少なくとも計算値の2倍は欲しいところです。
今回は、計算値より大き目の10[μF]とします。
(3)出力コンデンサ(Co) ---(2024/09/28 修正)
出力コンデンサCoの影響がないように定数を決定します。
本増幅回路の次段の回路の入力抵抗:RLとすれば、
RcとRLとCoはローカット・フィルター(Low Cut Filer)を構成するため
Coの値が小さいと増幅する周波数帯域の低域側で増幅度が
低下してしまいます。この影響をなくすためには、
フィルタのカットオフ周波数が信号の最低周波数より
十分小さくなるようにCoを決定します。

(ノートンの等価回路からテブナンの等価回路への変換は
こちら。)
このローカット・フィルターのカットオフ周波数fcoは、
fco = 1/(2π * Co * RL)
fco = 1/{2π * Co * (Rc + RL)}
となりますので、信号の最低周波数をfslとすれば
fsl >> fco
となるようにCoを決定すればよいことになります。よって
fsl >> 1/(2π * Co * RL)
∴Co >> 1/(2π * fsl * RL)
fsl >> 1/{2π * Co * (Rc + RL)}
∴Co >> 1/{2π * fsl * (Rc + RL)}
入力信号の最低周波数(fsl)を50[Hz]とします。
RL=1[kΩ](実験の際のRLとは値が異なる)と仮定して、計算すると
Co >> 1/(2π * fsl * R) = 1/(2π * 50 * 1000) ≒ 3.18[μF]
Co >> 1/{2π * fsl * (Rc + RL)} = 1/{2π * 50 * (2200 + 1000)} ≒ 0.99[μF]
電解コンデンサは経年変化により静電容量が減少しますので、
少なくとも計算値の2倍は欲しいところです。
今回は、計算値より大き目の22[μF]とします。
(4)バイパス・コンデンサ(CE)
負帰還なしのエミッタ接地増幅回路
で計算した値を使用します。
従って、CE = 470[μF]
実験方法
信号源としては、トランス・ボックス
を使用します。
従って、周波数は(東日本では)50Hzになります。
トランス・ボックスの出力電圧がそのままでは電圧が高過ぎるので
3.3kΩと10Ωの抵抗器により分圧し、20mV(rms)程度まで減衰させます。
このとき、アッテネータとしてグランドとの間に10Ωを使用すると
増幅器からみたときの信号源のインピーダンスが10Ωと低く
抑えられるので、実験には好都合です。

測定には5kΩの可変抵抗器、
20kΩの可変抵抗器、ディジタル・テスターの
交流電圧測定機能を使用して、簡易測定法により、電圧増幅度、
入力インピーダンス、出力インピーダンスをそれぞれ測定します。
- 電子ブロックの配置

- 電圧増幅度の測定
増幅回路における電圧増幅度の簡易測定法によります。
(1)下図の測定回路を組立てます。

(2)RE(AC)の値を設定します。
(3)vsの値を読みます。
(4)voの値を読みます。
(5)vsの値に減衰回路の減衰比をかけてviを求めます。
今回の回路では、減衰比は10/3310になります。
(6)viの値とvoの値から電圧増幅度Av=vo/viを求めます。
(7)RE(AC)の値を220、440、660、880、1100と変えながら
(2)〜(6)の測定を繰り返します。
- 入力インピーダンスの測定
増幅回路における入力インピーダンスの簡易測定法によります。
(1)下図の測定回路を組立てます。

(2)RE(AC)の値を設定します。
(3)VRを0[Ω]の状態にしてvoの値を読み取ります。
この時のvoの読みをvo0とします。
(4)voの値が1/2*vo0となるようにVRを調整します。
(5)VRを回路から外し、テスターの抵抗レンジでVRの値を読み取ります。
この時のVRの値がZiとなります。
(6)RE(AC)の値を220、440、660、880、1100と変えながら
(2)〜(5)の測定を繰り返します。
- 出力インピーダンスの測定
増幅回路における出力インピーダンスの簡易測定法によります。
(1)下図の測定回路を組立てます。

(2)RE(AC)の値を設定します。
(3)SWを開放の状態にしてvoの値を読み取ります。
この時のvoの読みをvo0とします。
(4)SWを閉じて(短絡)からvoの値が1/2*vo0となるようにVRを調整します。
(5)VRを回路から外し、テスターの抵抗レンジでVRの値を読み取ります。
この時のVRの値がZoとなります。
(6)RE(AC)の値を220、440、660、880、1100と変えながら
(2)〜(5)の測定を繰り返します。
なお、SWについては、実際は配線を取り外すことにより解放しました。
実験機材
- 電子ブロック
- トランス・ボックス
- 5kΩの可変抵抗器
- 20kΩの可変抵抗器
- 固定抵抗器:3.3kΩ(1%)、10Ω(1%)
- ディジタル・テスター
- 乾電池:1.5V×4本、乾電池ホルダー
- 配線材
実験結果
- 電圧増幅度の測定
viの値は、vsの値に減衰比=10/3310をかけて算出しました。
また、Av = - vo/vi です(Av > 0としました)。
vsの値 [V] | viの値 [mV]
| RE [Ω]
| voの値 [mV]
| Av(測定値)
| Av(精密計算値)
| Av(概算計算値)
| 備考 |
6.75
| 20.4
| 1100
| 37
| 1.8
| 1.96
| 2
| |
880
| 48
| 2.4
| 2.44
| 2.5
| |
660
| 64
| 3.1
| 3.22
| 3.3
| |
440
| 95
| 4.7
| 4.75
| 5
| |
220
| 185
| 9.1
| 9.06
| 10
| |

- 入力インピーダンスの測定
RE [Ω]
| voの値 [mV]
| vo/2の値 [mV]
| Zi [kΩ] (測定値)
| Zi [kΩ] (精密計算値)
| Zi [kΩ] (概算計算値)
| 備考 |
1100
| 38
| 19
| 11.7
| 13.9
| 13.9
| |
880
| 48
| 24
| 11.7
| 13.7
| 13.7
| |
660
| 64
| 32
| 11.8
| 13.3
| 13.3
| |
440
| 96
| 48
| 11.1
| 12.7
| 12.6
| |
220
| 185
| 92
| 10.1
| 11.1
| 10.8
| |

- 出力インピーダンスの測定
RE [Ω]
| voの値 [mV]
| vo/2の値 [mV]
| Zi [kΩ] (測定値)
| Zi [kΩ] (計算値)
| 備考 |
1100
| 38
| 19
| 2.63
| 2.2
| |
880
| 48
| 24
| 2.69
| 2.2
| |
660
| 63
| 32
| 2.61
| 2.2
| |
440
| 96
| 48
| 2.36
| 2.2
| |
220
| 185
| 92
| 2.26
| 2.2
| |

測定結果・考察
- 電圧増幅度の測定
測定値と精密計算値はよく一致しました。
また、測定値と概算計算値は負帰還量が大きい程よく一致しました。
実用上は、概算計算値で十分と考えられます。
概算式Av = - Rc/REは、抵抗器の値だけでAvを決定出来るため
回路設計上、たいへん便利です。
- 入力インピーダンスの測定
精密計算値と概算計算値とはほとんど差がないため、概算計算式 Zi=R1//R2で
十分であると考えられます。
測定値と計算値は10%〜20%の差があり、やや大きくなりました。
- 出力インピーダンスの測定
測定値と計算値は最大20%近い差があり、やや大きくなりました。
今後の課題
- 周波数特性の測定
周波数特性は増幅回路の基本的な特性のひとつですが、今回の実験では
信号源として発振器ではなく、トランス・ボックスを使用する方針としたので
周波数特性の測定は断念しました。
- ひずみ率の測定
用途によってはひずみ率も重要な特性ですが、ひずみ率計が手元にないため
将来の課題としました。
参考文献
- 定本トランジスタ回路の設計(1991 初版)、鈴木雅臣著、CQ出版社
- トランジスタ技術SPECIAL No.60 実験で学ぼう回路技術のテクニック(1997)、CQ出版社
実験2-1 トランジスタの基本回路を実験する、加藤隆志
-
>関連項目
- エミッタ共通トランジスタ増幅回路(交流負帰還有り)
-
実験の様子
- 自作電子ブロックの配置

- REに使用した220Ω×5のブロック

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