JH8CHUのホームページ
>電源回路の実験>電流増幅付き定電圧電源回路の実験
電流増幅付き定電圧電源回路の実験
工事中(2015/05/01)
実験の目的
電圧の安定化についてはツェナー・ダイオードの特性をそのまま利用するが
電流増幅のためのトランジスタを追加することにより、ツェナー・ダイオード
単体より安定化できる負荷電流の値を大きくできる安定化電源回路について
動作を確認し、基本的な特性を測定します。
実験課題
下記の項目について測定を行い、測定結果を設計値と比較検討します。
- 負荷変動に対する出力電圧の変化率
- 入力電圧の変動に対する出力電圧の変化率
実験回路
- 実験回路(1)
- 実験回路(2)
回路の動作
ツェナーダイオードのみの定電圧電源では、負荷電流の変動分が全てツェナー電流の
変化となるため、定電圧化出来る負荷電流の大きさに制限があります。
そこで、トランジスタによる電流増幅回路を付加することにより安定化出来る
負荷電流を大きくします。
R1とZDは
ツェナー・ダイオードによる安定化電源回路そのものです。
本安定化電源回路は、このツェナー・ダイオードの回路に
トランジスタのエミッタ・フォロワー
を組み合わせた回路構成になります。
ツェナー・ダイオードによりVzは一定電圧です。出力電圧VoはVzよりトランジスタTr1の
ベース〜エミッタ間電圧VBE(≒0.7[V])の分だけ低い電圧となるため一定電圧になります。
一方電流は出力電流をIoとすればトランジスタのベースに流れ込む電流Ibは
Ib = IE / (hFE + 1) ≒ Io / hFE
となります。ここに、hFEはトランジスタTr1の直流電流増幅率です。
Ibはツェナー・ダイオードの安定化回路からみると負荷電流になりますが、
Ioの1/hFEになります。逆に言うと、ツェナー・ダイオードによる安定化電源回路の
負荷電流はトランジスタによりhFE倍に増幅されたことになります。
実験回路の設計
- 設計条件
(1)出力電圧:
実験回路@: 4.4[V]
実験回路A: 5.1[V]
(2)負荷電流:0〜20[mA]
(3)入力電圧:7.5〜12[V]
- トランジスタの選定
小信号の汎用トランジスタが使用できるよう、負荷電流は20mAとしましたので、
2SC1815(Y)を使用します。
コレクタ損失の最大値は、入力電圧が12[V]、出力電流が20[mA]、出力電圧が4.5[V]
のときで、PC(max)= (12 - 4.4) * 0.02 = 152[mA]です。
項目 | 記号 | 単位 | 部品仕様(25℃) | 設計値(max) | 判定 | 備考 |
コレクタ電流 | IC | mA | 150 | 20 | OK | |
コレクタ損失 | PC | mW | 400 | 152 | OK | |
コレクタ・エミッタ間電圧 | VCEO | V | 50 | 7.6 | OK | |
直流電流増幅率 | hFE | | 120〜240 | − | − | Yランク |
- 抵抗:R1の選定
ツェナーダイオードにはVz=5.1[V]となる品種を想定します。
出力電流Ioの最大値は20[mA]です。トランジスタに2SC1518のYランクを使用すると、
hFEの最小値は120なので、Ibの最大値は
Ib(max) = 0.02/120 = 167[μA]
となります。
ツェナーダイオードに流れる電流はR1で決まりますが、ツェナー電圧を一定に
保つためにはツェナーダイオードに一定以上の電流を流しておく必要があります。
ツェナーダイオードの電流が最小になる条件は下記です。
・負荷の電流(Io)が最大になったとき、すなわちIbが最大になったとき、
・入力電圧(Vi)が最小になったとき、
Izに少なくとも10[mA]流すと仮定すると、抵抗R1に流す最小電流I1(min)は
I1(min) = Iz(min) + Ib(max) = 10[mA] + 0.167[mA] ≒ 10.2[mA]
となります。入力電圧(Vi)が最小の場合でこの電流を流すためには
R1 = {Vi(min) - Vz} / I1(min) = (7.5 - 5.1) / 0.0102
∴R1 ≒ 235[Ω]
E-6系列から選定するとしてR1 = 220[Ω]とします。
R1に流れる最大電流は、入力電圧が12[V]のときなので、
IR1(max) = (12 - 5.1)/220 ≒ 31.4[mA]です。
最大消費電力PR(max) = (12 - 5.1) * 0.0314 ≒ 0.217[W]
なので、ややマージンが少ないですが、1/4[W]タイプの抵抗器を使用します。
- ツェナー・ダイオードの選定
出力電圧はツェナー電圧で決まってしまうため、入手出来るツェナーダイオード
によって出力電圧の仕様を決めることになります。
ツェナー・ダイオードによる電源安定化の実験
でも使用した1N5231Bを使用します。
ツェナー・ダイオードに流れる最大電流は、入力電圧が最大の12[V]のときで
かつ、出力電流Io=0、すなわちIb=0のときです。従って
Iz(max) = (Vi - Vz)/R1 = (12 - 5.1)/220 ≒ 31.4[mA]
最大消費電力はPD = 5.1 * 0.0314 ≒ 160[mW]
項目 | 記号 | 単位 | 部品仕様(25℃) | 計算値(max) | 判定 | 備考 |
許容電力 | PD | mW | 500 | 160 | OK | |
- ダイオード:D1の選定
ディジタル回路では5[V]の電源がよく使われます。
本実験回路@では出力電圧が約4.4Vとなりますが、この出力電圧を5[V]に近づけるため
ツェナー・ダイオード:1N5231Bと直列にシリコンダイオード:1S1588を接続してみました。(実験回路A)
最大電流はIF = (12 - 5.1 - 0.7)/220 = 28.2[mA]です。
項目 | 記号 | 単位 | 部品仕様(25℃) | 計算値(max) | 判定 | 備考 |
許容電流 | IF | mA | 120 | 28.2 | OK | |
- ツェナー電圧の変動幅
(1)負荷電流(Io)の変化に対する変動検討
本回路構成においてはツェナー電流の変化ΔIzは、出力電流の変化ΔIoに対して
トランジスタのhFE分の1に小さくなります。
一方、トランジスタのhFEは最も小さいとき、すなわちhFE(min)
のときツェナー電流の変化ΔIzが大きくなります。
従って、負荷電流の変化幅ΔIoは20[mA]ですので、ツェナー電流の変化幅ΔIzは
ΔIz = 0.02/120 = 167[μA]
となります。
ツェナーダイオードに1N5231Bを使用した場合、データシートよりIz=20[mA]における
等価直列抵抗Zzは17[Ω]ですので、ツェナー電圧の変化幅ΔVzは
ΔVz = Zz * ΔIz = 17 * 0.000167 = 2.9[mV]
このようにトランジスタによる電流増幅を行うことにより、ツェナー電圧の変動幅は
1/hFEに小さくなることが判ります。
(2)入力電圧(Vi)の変化に対する変動検討
入力電圧の変化ΔViに対しては、抵抗R1を流れる電流の変化ΔI1が、
全てツェナー電流の変化ΔIzになります。よって、入力電圧の変化に対する
出力電圧の変動幅ΔIoは
ツェナー・ダイオードによる安定化電源回路と
同じになると考えられます。よって、
ΔI1 = {Vi(max) - Vi(min)}/R1 = (12 - 7.5)/220 = 20.5[mA]
= ΔIz
ΔVz = Zz * ΔIz = 17 * 0.0205 = 348.5[mV]
実験方法
- 電子ブロックの配置
(1)実験回路(1)
(2)実験回路(2
- 最初、電圧Viを12[V]に設定します。
負荷抵抗RLとして下記の値を接続し、電圧ViとVoを測定します。
Viも測定するのは、出力電流が大きくなってくると乾電池の内部抵抗により
電圧降下が発生して、Viが低下してくるからです。
(1)RL = 無限大 (IL = 0[mA])
(2)RL = 2.2[kΩ] (IL = 2.3[mA])
(3)RL = 1[kΩ] (IL = 5.1[mA])
(4)RL = 680[Ω] (IL = 7.5[mA])
(5)RL = 470[Ω] (IL = 10.9[mA])
(6)RL = 220[Ω] (IL = 23.2[mA])
(6)RL = 150[Ω] (IL = 34.0[mA])
(6)RL = 100[Ω] (IL = 51.0[mA])
消費電流が最大となる100[Ω]の場合、負荷抵抗の消費電力Pは
P = Vz * IL = 5.1 * 0.05 = 255[mW]
なので、負荷抵抗器は1/4Wでは許容電力不足ですが、
短時間の測定なので手持ちの1/4Wタイプを使用することにしました。
- 電池の数を調整して、電圧Viを12[V]、10.5[V]、9[V]、7.5[V]と変化させながら
上記と同様負荷抵抗RLを変えながらViとVoを測定します。
実験機材
- 電子ブロック
- 固定抵抗器(RL):
100[Ω]、150[Ω]、220[Ω]、470[Ω]、680[Ω]、1[kΩ]、2.2[kΩ]
- ディジタル・テスター
- 乾電池:1.5V×8本
- 電池ホルダー
実験結果
- 測定データ(実験回路@)
- データのグラフ(Io-Vo特性)(実験回路@)
- 5V付近の拡大グラフ(実験回路@)
- 測定データ(実験回路A)
- データのグラフ(Io-Vo特性)(実験回路A)
- 5V付近の拡大グラフ(実験回路A)
測定結果・考察
- 出力電流の変化に対する出力電圧の変動
出力電流が最大負荷の20[mA]を超えても、ツェナー電圧Vzはほとんど変化していません。
しかし、出力電圧Voは出力電流の変化に対して大きく変化しています。
これはトランジスタのベース〜エミッタ間電圧VBEの変化によるものです。
この変化はトランジスタのVBE-IB特性によるものなので
定量的な計算は難しいと考えます。
(変化量が小さければhieから計算出来そうですが、ベース電流の変化に対する
適用範囲が狭く実用的ではないでしょう。)
よって温度による変化も考慮すると、0.3〜0.5[V]位の変化を覚悟した用途になると考えます。
例えば、厳密な電圧を必要としない交流のアナログ増幅回路では、実用上問題ないと思われます。
ただ、無負荷状態付近の出力電流が小さいところでは電圧変化率が大きいので、ある程度(1[mA]?)
電流を流しておいた方がよいでしょう。
- 入力電圧の変化に対する出力電圧の変動
ツェナー電流が変化するため、基準電圧Vzが変化することにより出力電圧Voも変化します。
Viを12[V]から7.5[V]まで変化させたときの変化は下表となりました。
ΔVo 計算値(最大) | ΔVo 実測値[V] | 実測値/計算値(%) | 条件 |
348.5[mV] | 180[mV] | 51.7%
| 負荷抵抗:220[Ω](Io≒20[mA]) |
以上より、ツェナー・ダイオードの特性から推計出来ます。
今後の課題
- なし
参考文献
- なし
関連項目
- 電子回路-ツェナー・ダイオードによる安定化電源回路
- 電子回路-電流増幅付き定電圧電源回路
- ツェナー・ダイオードによる電源安定化の実験
- エミッタフォロワーの実験
-
JH8CHUのホームページ
>電源回路の実験>電流増幅付き定電圧電源回路の実験
Copyright (C)2015 Masahiro.Matsuda(JH8CHU), all rights reserved.