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ツェナー・ダイオードによる電源安定化の実験
本ページ作成。(2015/02/08)
説明追記。(2017/12/17)
実験結果のグラフを折線グラフから滑らかなグラフに変更しました。(2023/04/27)
実験の目的
ツェナー・ダイオードの特性をそのまま使用した電圧安定化電源回路について
安定化の特性を定量的に考察をする。
実験課題
下記の項目について測定を行い、ツェナー・ダイオードの仕様から計算した
出力電圧の変動幅(最大値)に対して、実験から得た出力電圧の変動幅が
設計値の範囲に収まることを確認する。
- 負荷変動に対する出力電圧の変化
- 入力電圧の変動に対する出力電圧の変化
実験回路
回路の動作
ツェナーダイオードに逆方向電圧を印加すると、固有の電圧で降伏現象が起こり、
ダイオードに流れる電流が変化しても両端の電圧が一定となります。
入力電圧Viを抵抗R1を経由して、ツェナー・ダイオードと負荷とが並列になった回路に
接続すると、ツェナー・ダイオードの両端の電圧が一定となるため、
負荷の回路の電圧も一定に保つことが出来ます。
実験回路の設計
- 設計条件
(1)出力電圧(Vo): 5.1[V](ツェナー電圧と同じ)
(2)負荷電流(Io): 0〜10[mA]
(3)入力電圧(Vi): 7.5〜9.0[V]
- 抵抗:R1の選定
ツェナーダイオードの静特性測定実験
の結果から、ツェナーダイオードの
電圧を一定にするためには常に一定以上の電流を流しておく必要があります。
今回、この最少電流:Iz(min)を10[mA]とします。
回路構成より、ツェナーダイオードに流れる電流が最も少なくなる条件は
・負荷電流Ioが最大になったとき、すなわちIo(max)となったとき
・入力電圧Viが最小になったとき、すなわちVi(min)となったとき
のふたつが同時に成立したときです。
そして、このときR1に流れる電流をI1とすれば
I1= Io(max) + Iz(min) = 10[mA] + 10[mA] = 20[mA]
となります。設計条件よりVi(min)=7.5[V]なので、R1は
R1 = (Vi(min) - Vz)/I1
= (7.5 - 5.1)/0.020
∴R1 = 120[Ω]
E-24系列の抵抗を選ぶとして、R1=100[Ω]とします。
R1の最大消費電力P1は
P1 = V1(max)2/R1 = (9 - 5.1)2/100
∴P1 = 0.152
となることから、1/4Wタイプの抵抗器を使用します。
- ツェナー・ダイオードの選定
出力電圧はツェナー電圧で決まってしまうため、入手出来るツェナーダイオード
によって出力電圧の仕様を決めることになります。
また、ツェナー・ダイオードの電流Izが最大になるための条件は
・負荷電流が最小であるIo(min)=0[mA]のとき
(R1を流れる電流は全てツェナーダイオードに流れ込みます。)
・入力電圧Viは最大のとき
のふたつが同時に成立したときです。
このとき、回路構成よりIz(max)は
Iz(max) = (Vi(max) - Vz) /R1 = (9 - 5.1)/100
∴ Iz(max) ≒ 39[mA]
ツェナー・ダイオードに要求される最大定格電力PDは
PD = Iz(max) * Vz = 39[mA]×5.1[V]
∴ PD ≒ 199[mW]
以上必要です。実際は、更に安全率を見込んだ仕様の部品を選定します。
今回は静特性の測定でも使用した1N5231Bを使用します。
項目 | 記号 | 単位 | 部品仕様(25℃) | 設計値
| 判定条件
| 判定 | 備考 |
最大定格電力 | PD | mW | 500 | 199
| 部品仕様>設計値
| OK | |
- 出力電圧の変動幅
本回路構成においては出力電流Ioの増加は、そのままツェナー電流Izの減少となります。
ツェナーダイオードに1N5231Bを使用した場合、データシートよりIz=20[mA]における
等価直列抵抗(Zz)は17[Ω]です。
このため、もしツェナー電流Izが10[mA]変化した場合、ツェナー電圧Vz、
すなわち出力電圧Voの変化は最大ΔVo = ΔIz×Zz = 0.01×17 = 0.17[V]変化する
と考えられます。従って、無負荷時の出力電圧が5.1[V]であったとすれば
出力電流を10[mA]取り出したときの出力電圧は最大5.1 - 0.17 = 4.93[V]まで
低下することになります。また、電圧変動率としては-3.3%となります。
実験方法
- 下記の実験回路を組み立てます。電池は最後に接続します。
- 電池の電圧Eは9[V]とします。
負荷抵抗RLとして下記の値を接続し、電圧ViとVoを測定します。
Viも測定するのは、乾電池が古くなっていると、実験中に想定外の電圧降下が
発生して、実験結果が信頼出来なくなることがあるからです。
(1)RL = 無限大 (IL = 0[mA])
(2)RL = 2.2[kΩ] (IL = 2.3[mA])
(3)RL = 1[kΩ] (IL = 5.1[mA])
(4)RL = 680[Ω] (IL = 7.5[mA])
(5)RL = 470[Ω] (IL = 10.9[mA])
(6)RL = 220[Ω] (IL = 23.2[mA])
(6)RL = 150[Ω] (IL = 34.0[mA])
(6)RL = 100[Ω] (IL = 51.0[mA])
消費電流が最大となる100[Ω]の場合、負荷抵抗の消費電力Pは
P = Vz * IL = 5.1 * 0.05 = 255[mW]
なので、負荷抵抗器は1/4Wでは許容電力不足ですが、
短時間の測定なので手持ちの1/4Wタイプを使用することにしました。
(実際は、最大負荷でVoが低下してしまうため許容電力を超えないと思います。)
- 電池の電圧Eを7.5[V]、6.0[V]として、上記と同様負荷抵抗RL
を変えながらViとVoを測定します。
E=6.0[V]は、設計条件の範囲外ですが、条件の範囲外での動作がどうなるかを
観察するために、参考に測定しました。
実験機材
- ツェナー・ダイオード:1N5231B
- 固定抵抗器(R1):100[Ω]
- 固定抵抗器(RL):
100[Ω]、150[Ω]、220[Ω]、470[Ω]、680[Ω]、1[kΩ]、2.2[kΩ]
- ディジタル・テスター
- 乾電池:1.5V×6本
実験結果
- 測定データ
ViとVoが測定値です。
ΔVoはRL=∞のときのVoからの偏差です。
以下の値は計算により求めました。
Ii = (Vi - Vo) / R1
Io = Vo / RL
Iz = Ii - Io
- データのグラフ(Io-Vo特性)
- 5V付近の拡大グラフ
考察
- 出力電圧の変動幅と変動率
負荷抵抗として470[Ω]を接続したときを、回路設計条件の最大負荷電流と考えたとき
出力電圧の変動幅と変動率は下記の表のようになりました。
ΔVo 計算値(最大) | E[V] | ΔVo 実測値[V] | 無負荷に対する電圧変動率 |
0.17[V] (3.3%) | 9.0
| 0.04 | 0.8% |
7.5 | 0.07 | 1.4% |
6.0 | 0.2 | 4.0% |
出力電圧の変動幅と変動率は、E=9[V]、E=7.5[V]において計算値(最大)の範囲内になりました。
なお、E=6.0[V]のときは、設計条件の範囲外ですが、参考測定です。
- ツェナーダイオードに流す最低電流
ツェナーダイオードの静特性測定実験
の結果からすでに明らかでしたが
Izが10[mA]以下になると急激にダイオード両端の電圧が低下します。
実験に使用したツェナーダイオードは最大定格電力が500[mW]なので電流に換算すると
0.5/5.1 = 98[mA]ですので、10[mA]は最大定格電力の約10%です。
ツェナーダイオードに流す最低電流は、これくらいが目安と考えます。
一般的に、ツェナー電流を大きくする程、ツェナーダイオードの等価直列抵抗は小さく
なっていくので、Izの最低電流を大きくするほど、電圧変動率は小さくなると考えられます。
今後の課題
- 温度変化に対する出力電圧の変化について定量的な見積りを行う
参考文献
- なし
関連項目
- 電子回路→ツェナーダイオードによる定電圧電源回路
- ツェナーダイオードの静特性測定実験
-
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