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低周波発振器


本ページのタイトルを正弦波発信器から低周波発振器に変更。(2024/11/07)
本ページ完成。(2025/05/21)

  1. 概要


  2. 仕様

    1. 発振波形: 正弦波
    2. 発振周波数: 100Hz, 300Hz, 1KHz, 3kHz (いずれもだいたい)
    3. 出力インピーダンス: 600Ω(これもだいたい)
    4. 出力レベル(rms): 800mV以上(結果的に)
    5. 電源: AC 100V

  3. 外観

    1. 正面


    2. 背面


  4. ブロック図

  5. 本器は、電子回路の基本的な実験に使用することを想定しているので
    正弦波発振器としては、必要最小限の機能のみに限定して
    複雑な回路にならないようにします。
    しかし、そうは言っても、周波数は4段階で可変出来るようにしました。



    1. CR移相発振
    2. 回路構成を出来るだけ簡単にするために、周波数の連続可変は出来ませんが、
      4段階(100Hz、300Hz、1kHz、3kHz)をロータリースイッチで切り換えます。
      CR移相発振回路が生成する波形は正弦波ですが、歪は多い方です。
      移相発振回路の発振原理は こちらを参照してください。
      なお、本機とトランス・ボックスを 併用することにより50Hzを含めて
      5段階の周波数を使用できるという作戦です。(^^v

    3. エミッタ・フォロワー(1)
    4. 発振回路の出力を直接出力レベルのVRに接続すると、VRを可変したとき、
      負荷の変動によりCR発振の周波数が変動しないか心配だったため、
      VRの手前にエミッタ・フォロワー(1)を入れました。
      もともと移相発振回路の正帰還は、このエミッタ・フォロワーからかける計画でしたが、
      移相発振回路の実験 の結果、2石構成では安定に発振させるのは難しいことが
      判明したため、発振回路はトランジスタ1石の構成とした次第です。

    5. エミッタ・フォロワー(2)
    6. 出力端子のインピーダンスを600Ωでドライブするために
      出力はエミッタ・フォロワーで駆動します。
      エミッタ・フォロワー(1)の出力は発振出力のレベルを調整するための
      可変抵抗を経由し、エミッタ・フォロワー(2)に入力されます。

    7. 電源回路
    8. 整流・平滑した後、簡単な安定化回路でVcc=10[V]を得ています。
      機器の構成上、電源端子がGNDに短絡することはないはずですが、
      調整中の短絡など、万が一を想定して短絡保護回路を挿入しています。
      回路の動作は、 電流増幅回路付きシャント・レギュレータの実験
      で用いた回路と同様ですので、詳細はそちらを参照してください。

  6. 回路図

    1. 移相発振部〜エミッタ・フォロワー(1)


    2. エミッタ・フォロワー(2)


    3. 電源部



  7. 設計

    1. CR移相発振回路
    2. 移相発振回路と直結接続された次段のエミッター・フォロワー(1)の
      直流レベル設計は
      バイポーラトランジスタ2段直結アンプ(エミッタ接地〜コレクタ接地)の実験
      に用いた回路とほとんど同じです。
      周波数をスイッチで切り変えるために3回路4接点のロータリー・スイッチで
      コンデンサーを切り換えています。
      移相発振回路の発振周波数(f)は次の式で与えられます。
      f = 1 / (2π*√6*CR)

      Cの値を小さくするためにRを大きめな10[kΩ]としました。
      Cの値は上記の式を変形して、次の式で計算します。
      C = 1 / (2π*√6*fR)


    3. エミッター・フォロワー(1)
    4. 発振回路の出力は直結回路でエミッター・フォロワーに接続します。
      直流レベルの設計は、発振回路で述べたように
      バイポーラトランジスタ2段直結アンプ(エミッタ接地〜コレクタ接地)の実験
      を参照してください。
      なお、エミッタ・フォロワーのベースには保険として異状発振対策の100[Ω]を
      挿入しています。
      エミッター・フォロワー(1)の出力は、出力レベル調整用の10[kΩ]AカーブのVRに
      接続しますが、このVRと直列に10[kΩ]固定抵抗器を入れています。
      これは、出力に600[Ω]の負荷を接続した状態で、VRを最大にすると、出力波形が
      クリップしてしまったため、最大出力電圧を制限するため最後に追加したものです。
      エミッター・フォロワーの負荷が重くなった場合の動作については
      トランジスタのデバイス実験にある エミッター・フォロワーの実験などを
      参照してください。

    5. エミッター・フォロワー(2)
    6. コレクタ電流(≒エミッタ電流)を3[mA]、エミッタの電圧を(1/2)*Vccである
      5[V]とすれば、エミッタ抵抗の値は
      5[V] / 3[mA] ≒ 1.7[kΩ]

      となるので、E6系列から選定して1.5[kΩ]
      としました。
      2SC1815-YのhFEはデータシートより120〜240ですので、中央値をとって
      180とすれば、ベース電流は
      3[mA] / 180 ≒ 17[μA]

      です。ブリーダー抵抗に流す電流をこの値の10倍とするためには
      10[V] / (17[μA] * 10) ≒ 58.8[kΩ]

      また、ベースの電位はエミッタより0.7[V]高いとすると5.7[V]です。
      ブリーダー抵抗はVccを分圧して5.7[V]にするとすれば、GND側が
      58.8[kΩ] * (5.7[V] / 10[V]) ≒ 33[kΩ]
      Vcc側は
      58.8[kΩ] - 33[kΩ] = 25.8[kΩ]

      ですので、E6系列だと、22[kΩ]か33[kΩ] になります。
      結局、トランジスタのエミッタ電流を3[mA]より大きめにするか小さめにするか
      という話になりますが、小さめに設定することとし、33[kΩ]を選択しました。
      以上の抵抗選定の結果、各部の電圧・電流を計算し直すと下図となります。


      なお、エミッタ・フォロワーのベースには保険として異状発振対策の100[Ω]を
      挿入しています。

    7. LED点灯回路
    8. 赤色のLEDを使用します。
      LEDの電流は5〜10[mA]になるよう直列抵抗を決めます。
      仮に電流を5[mA]、LEDの両端の電圧を2[V]とすれば、必要な抵抗値(R3)は
      R3 = (Vcc - 2)/電流 = (10 - 2)/0.005 = 1600[Ω]

      E6系列から選定して1.5[kΩ]とすれば、 LEDに流れる電流は、
      (10[V] - 2)/1500 ≒ 5.3[mA]です。

    9. 電源回路
    10. 発振回路とエミッタフォロワーの基板の電源バイパス・コンデンサー
    11. VccとGND間に100[μF]をつけました。


  8. 使用部品


  9. 製作

  10. ケースは定番のCN-13Nです。
    1. 正面寸法


    2. 背面寸法


    3. 内部実装


    4. 移相回路のCRはロータリースイッチにチューブラで配線
    5. (あんまり美しくないけど(^^;; )


  11. 動作確認・調整

    1. 電源回路の動作確認
    2. 最初に電源基板のみ組み立て動作を確認します。
      LEDが点灯し、直流出力電圧(Vcc)をテスターで測定し、10[V]前後出ていれば
      OKです。

      電源基板各部の電圧も念のためチェックしました。その結果、整流電圧がかなり
      低いことが判明しました。(゜o゜;;


      設計上は34[V]を見込んでいたので29.4[V]は想定より4.6[V]も低いです。
      見落としていたのばブリッジ・ダイオードによる電圧降下で、最大2[V]
      (ダイオード1個あたり1[V])ですが、それでも合いません???
      トランスの二次側の交流電圧は約25[V]だったので、トランスの問題では
      なさそうです。この結果、トランジスタのコレクタ〜エミッタ間の電圧が
      1.9[V]になってしまい、ツェナーダイオードの電流も8.6[mA]になってしましたが、
      どうにか動作に支障はないようなのでこのままにしました。

      下図はエミッターフォロワー(2)の電圧です。概ね設計通りです。

      (白の吹き出しが設計値。黄色が実測値)

      発振回路とエミッターフィォロワー(1)の電圧は
      「バイポーラトランジスタ2段直結アンプ(エミッタ接地〜コレクタ接地)の実験」
      とほぼ同じなので省略します。

    3. 発振波形の調整
    4. 周波数調整用の半固定抵抗(10kΩ)は最大にしておきます。
      この半固定抵抗の値は小さくし過ぎると発振が停止してしまいます。(>_<;
      増幅度調整用の半固定抵抗(1kΩ)はエミッタ側にしておきます。
      電源を入れ、発振していることが確認出来たら、オシロスコープで波形を
      観測しながら、増幅度調整用半固定抵抗(1kΩ)を調整し、発振が安定に継続し、
      かつ波形歪が小さくなるような位置を探して設定します。
      波形は各周波数レンジ毎に確認します。
      発振電圧はレンジが低い方が大きくなるので、一番低い100Hzが歪易いようです。
      しかし、歪を小さくし過ぎると高いレンジの3kHzで発振が止まることがあるので
      レンジを変えながら何回か調整します。

    5. 発振周波数の調整
    6. 発振周波数の調整は1kHzで実施しました。
      周波数調整用の半固定抵抗(10kΩ)を調整しカウンタの値が1kHzになるよう
      調整すれば終了です。
      レンジ毎の調整はできないので、どのレンジを優先するかは個人の好みです。(^^;

    7. 発振周波数
    8. 今回調整した結果、下記となりました。
      最大出力電圧は、テスターアダプタで測定したので、1k[Hz]以上は
      やや怪しいです。(-_-;

      レンジ
      [Hz]
      実測周波数
      [Hz]
      最大出力電圧
      [mV](無負荷)
      最大出力電圧
      [mV](600Ω負荷)
      出力インピーダンス
      [Ω](*1)
        備考  
      100 102 1000 520 733
      300 309 980 500 733
      1k 1.00k 940 440 733 このレンジで周波数を設定
      3k 2.96k 800 360 733
      (*1)出力インピーダンスの簡易測定法 により測定しました。設計値よりやや大きいです。(-_-??

    9. 発振波形
    10. 1[kHz]の出力波形です。オシロスコープで見る限り結構きれいです。(^^v

      0.2ms/div、200mV/div

      100[Hz]の出力波形です。マイナス側の最大値付近で少し歪が感じられます。

      2ms/div、200mV/div

  12. 今後の課題

  13. 本機は機能を最低限にしぼり、できる限り簡単に作ることを優先した仕様なので、
    とりあえず発振器としては問題ないのですが、気になるのは
    1. 出力インピーダンス
    2. 設計値(約600[Ω])と実測値(約733[Ω])との差がやや大きいです。
      測定法の問題かもしれませんが。

    3. 整流電圧
    4. 動作確認の項に記載した通り、設計値と実測値との差が想定外に大きいですが
      動作に支障がないため、とりあえず原因調査は保留にしています。(-_-;

    今後は、周波数の連続可変、より高い周波数の発振、正弦波の低歪み化などを目指した
    高性能な発振器を2号機以降で製作していく予定です。

  14. 参考文献

    1. 定本続トランジスタ回路の設計(1992 初版) 14.2 CR発振回路の設計、鈴木雅臣著、CQ出版社
    2. はじめてのトランジスタ回路設計(1999 初版) P-108〜112 2石で組むエミッタ・フォロワ、 黒田徹著、CQ出版社

  15. 関連項目

    1. 関連図


    2. 電子回路− 移相発振回路の原理
    3. 発振回路の実験−移相発振回路の実験
    4. トランジスタ増幅回路の実験− バイポーラトランジスタ2段直結アンプ(エミッタ接地〜コレクタ接地)の実験
    5. トランジスタのデバイス実験−エミッター・フォロワーの実験
    6. 電源回路の実験−平滑回路の実験
    7. 電子回路− 平滑回路の動作(コンデンサー入力形)
    8. 電子回路− 整流用ダイオードの逆耐圧と電流
    9. 電源回路の実験− ツェナー・ダイオードによる定電圧電源の実験
    10. 電源回路の実験− 電流増幅回路付きシャント・レギュレータの実験
    11. 抵抗器に関する情報−E系列
    12. 自作計測回路−出力インピーダンスの簡易測定法

  16. 製作後記

  17. 本機設計の前提条件であった移相発振回路の実験で、想定外のトラブルにみまわれた上、
    部品の調達にも手間取り、それらの影響で本機の完成は計画より4ヶ月以上遅れてしまいました。(>_<;;
    まあ、しかし、本機の完成により、ようやくアナログ実験における三種の神器(?)である
    テスター・アダプター(mV交流電圧計)、正弦波発振器、および(簡易)安定化電源が
    そろったことになります。

    これまで、FETやバイポーラ・トランジスタの実験では、手元に発振器がないものと
    想定して、わざと信号源としてトランス・ボックス を使ってきましたが、
    これからは本発振器をメインに活用していく計画です。
    (本当は、学生時代に作った、本機より多機能で優秀な発振器 が手元にあったのですが
    本ホームページの実験ではわざと使ってきませんでした。笑)

    ・記念(?)写真
    テスター・アダプター(とアナログ電圧計)、低周波発振器、簡易安定化電源が
    三役そろい踏み(^^v





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