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整流用ダイオードの逆耐圧と電流


ようやく本ページ完成(2023/04/09)
  1. ダイオードにかかる最大逆方向電圧

    1. 半波整流回路
    2. 平滑コンデンサ:Cは最大√2×Vi(rms)まで充電されますが、もしリプル電圧が
      小さければ、コンデンサーCの両端の電圧はほとんど低下せず
      √2×Vi(rms)のままです。(詳細は平滑回路の動作 を参照)
      この状態でViの瞬時値が負の最大電圧-√2×Vi(rms)になったとすれば、
      ダイオードには最大2×√2×Vi(rms)の逆方向電圧が印加されます。
      従って、使用するダイオードの仕様として、逆方向電圧が
      2×√2×Vi(rms)に耐えられる品種を選定する必要があります。
      (この回路では平滑回路がないと最大逆方向電圧は√2×Vi(rms)となります)


    3. 全波整流回路(センタタップ付きトランスを使用)
    4. 絵に書くと、少しごちゃごちゃします。(^^;
      平滑コンデンサーCは最大√2×Vi(rms)まで充電されます。
      トランスの中点(0V)を基準にとると、A点とB点の電圧は180度位相が逆です。

      時刻t1において、D1は遮断、D2は導通状態です。
      この状態でVAの瞬時値は負の最大電圧-√2×Vi(rms)なので、
      ダイオードD1には最大2×√2×Vi(rms)の逆方向電圧が印加されます。

      時刻t2において、D1は導通、D2は遮断状態です。
      この状態でVBの瞬時値は負の最大電圧-√2×Vi(rms)なので、
      ダイオードD2には最大2×√2×Vi(rms)の逆方向電圧が印加されます。

      従って、D1、D2とも使用するダイオードの仕様として、逆方向電圧が
      2×√2×Vi(rms)に耐えられる品種を選定する必要があります。
      (この回路では平滑回路がなくても最大逆方向電圧は2×√2×Vi(rms)となります)


    5. 全波整流回路(ブリッジ方式)
    6. またまた絵がややこしい。(^^;
      2次側電圧ViはB点を基準にすると、A点はもちろん正弦波になります。
      平滑コンデンサーCは最大√2×Vi(rms)まで充電されます。

      Viが正の時間であるt1においては、D1、D3が導通、D2、D4は遮断状態です。
      なので、E点を基準に考えるとVBはほぼ0[V]なので
      VAは√2×Vi(rms)[V]です。
      よって遮断状態にあるD2、D4には√2×Vi(rms)[V]の逆方向電圧が印加されます。

      Viがの時間であるt2においては、D2、D4が導通、D1、D3は遮断状態です。
      なので、E点を基準に考えるとVAはほぼ0[V]なので
      VBは√2×Vi(rms)[V]です。
      よって遮断状態にあるD1、D3には√2×Vi(rms)[V]の逆方向電圧が印加されます。

      以上より、D1〜D4に使用するダイオードの仕様として、逆方向電圧が
      √2×Vi(rms)に耐えられる品種を選定する必要があります。
      (この回路では平滑回路がなくても最大逆方向電圧は√2×Vi(rms)となります)


    7. 全波整流回路(正負電圧を取り出せるブリッジ方式)
    8. E点を基準にするとVi+とVi-は逆位相になります。

      時刻t1においては、D1、D3が導通、D2、D4は遮断状態です。
      A点の電位は√2×Vi(rms)[V]です。D3が導通状態なのでD点の電位はB点とほぼ同じに
      なるため−√2×Vi(rms)[V]です。よってD4の逆方向電圧は2×√2×Vi(rms)[V]となります。
      一方D1が導通状態なのでC点の電位はA点とほぼ同じになるため√2×Vi(rms)[V]です。
      B点の電位は−√2×Vi(rms)[V]です。よってD2の逆方向電圧は2×√2×Vi(rms)[V]となります。

      同様に考えると、時刻t2においては、D2、D4が導通、D1、D3は遮断状態です。
      B点の電位は√2×Vi(rms)[V]です。D4が導通状態なのでD点の電位はA点とほぼ同じに
      なるため−√2×Vi(rms)[V]です。よってD3の逆方向電圧は2×√2×Vi(rms)[V]となります。
      一方D2が導通状態なのでC点の電位はB点とほぼ同じになるため√2×Vi(rms)[V]です。
      A点の電位は−√2×Vi(rms)[V]です。よってD1の逆方向電圧は2×√2×Vi(rms)[V]となります。

      以上より、D1〜D4に使用するダイオードの仕様として、逆方向電圧が
      2×√2×Vi(rms)に耐えられる品種を選定する必要があります。
      (この回路では平滑回路がなくても最大逆方向電圧は2×√2×Vi(rms)となります)


  2. ダイオードの電流波形

  3. 平滑回路のコンデンサーは充放電を繰り返しています。
    放電時、出力電流Idcは平滑コンデンサーより供給されます。


    充電時には、放電されて減ったコンデンサーの電荷を供給する必要があります。
    ところで充電時間は放電時間より短いため、コンデンサーの充電電流は放電電流Idc
    より大きな電流がパルス状に流れます。


    そしてこの充電電流はトランスとダイオードを経由して流れるので、トランスと
    ダイオードにも同じくパルス状の電流が流れます。
    下図は充電時に電流が流れる様子です。


    このように、ダイオードに流れる電流はIFは、負荷抵抗に流れる電流Idcと異なり
    パルス状に流れると同時に、その最大値IF(peak)はIdcより大きくなることに
    注意が必要です。
    これは、Idcはほぼ直流に近いのに対し、IFはこのIdcがコンデンサの放電によって
    失った電荷を、一気に電圧Vmax(=Vi(rms)×√2)に達するまで充電するためです。

    充電電流の値を解析的に解くことは一般的に困難です。
    リプル電圧をトランス二次側の巻き線抵抗(Rs)で割って求める方法や
    充電期間の導通角から求める方法などが提案されているようですが
    伝統的な(?)方法はO.H.Schadeのグラフを用いる方法です。

    (参考文献7より引用)

    nは、半波整流のときは1、全波整流のときは2を用います。
    右軸のRsはトランス二次側の巻き線抵抗、RLは等価的な負荷抵抗です。
    使い方は、まずRs/(n*RL)を求めて、右軸から曲線を選択します。
    (このグラフの右軸は%表示なので、実際はRs/(n*RL)*100となるので要注意です。)
    次に、nωCRs/RLの値を下軸から選んで、曲線との交点を左軸で
    読み取ります。この左軸の値はダイオードのピーク電流がダイオードの平均電流:IF(AV)
    何倍になるかの比を表しています。
    ダイオードの平均電流IF(AV)は、負荷に流れる平均電流をIDCとしたとき、
    半波整流の場合、IDC
    全波整流の場合、IDC/2
    となります。詳細はこの後の「ダイオードの定格電流」の項を参照してください。

  4. ダイオードの突入電流

  5. 電源をオンにしたとき、コンデンサーには電荷が溜まっていないため
    両端の電圧は0です。このため、電源を入れた直後にはトランスとダイオードを経由して
    コンデンサーに大きな充電電流が流れます。いわゆる、突入電流です。
    下図においてRsはトランス二次側の巻き線抵抗です。


    突入電流の大きさは、電源を入れたときの交流電源の位相によるため、
    毎回、大きさが異なります。


    ダイオードの規格表には、どれくらいのサージ電流に耐えられるかの最大定格を
    通常IFSMという記号で記載しています。
    突入電流の値IsurgeはこのIFSMを超えないようにしなければなりません。
    しかし、突入電流の最大値がいくらになるかを正確に計算するのはなかなか難しいです。

    一般的に突入電流の大きさはトランスの二次側巻き線抵抗、ダイオードの等価抵抗、
    ラインのインピーダンス、平滑用コンデンサーの容量などに依存します。
    これらのインピーダンスの中で最も大きいのは通常トランスの巻き線抵抗(Rs)です。
    単純計算だと、
    Isurge(max) = Vi(max)/Rs

    となりそうですが、実際には平滑コンデンサーの容量も影響があるようです。
    なので通常は、リプルの値を小さくするためにやたら大きな容量の平滑コンデンサーを
    使用するとサージ電流が増大するので、場合によっては対策のために回路上の工夫
    (例えばダイオードと直列に電流制限抵抗をいれるなど)必要になることがあります。

    注意を要するのはIFSMの値は1サイクルのみの許容値なので
    (時間が規定されている。通常、商用電源周波数の半分の周期で、
    10ms(=50Hz)か8.3ms(60Hz))、この値を連続して流していけません。
    なので、IFSMの値を前項のパルス状に流れるコンデンサーの
    充電電流の設計に使用してはいけません。

  6. ダイオードの定格電流

  7. 負荷抵抗に流れる平均電流をIDCとします。

    1. 半波整流回路
    2. ダイオードには半周期毎にしかパルス状に電流が流れませんが、
      負荷抵抗に流れる全ての電流がダイオードを経由するので
      ダイオードの平均電流(IF(AV))は結局IDCと同じになります。

    3. センタタップ付きトランスを使用した全波整流回路
    4. ダイオードのD1とD2に交互に電流が流れるので、それぞれのダイオードの平均電流は(IF(AV))
      IDC / 2 となります。

    5. ブリッジ方式の全波整流回路
    6. 4つのダイオードのうち、どちらか2つが交互に導通し電流が流れるので
      それぞれのダイオードの平均電流(IF(AV))はIDC / 2 となります。

    7. 正負電圧を取り出せるブリッジ回路
    8. 正側の負荷電流と負側の負荷電流が一般的にはバランスしていないので、
      正側の負荷抵抗に流れる平均電流をIDC+、 負側の負荷抵抗に流れる平均電流をIDC-とします。
      正側負荷に電流が流れるダイオードD1、D2の平均電流(IF(AV))はIDC+ / 2、
      負側負荷に電流が流れるダイオードD3、D4の平均電流(IF(AV))はIDC- / 2、となります。

    ダイオードの定格電流を決める際、平均電流(IF(AV))に対してどれくらい余裕を持たせるかは
    多少議論があるようです。
    文献1では、ダイオードにはパルス状に電流が流れるため、 負荷抵抗(RL)に流れる平均電流IDC
    よりも大きなものが必要としており、少なくとも1.5倍の定格のダイオードを選定するべき、
    しています。平均電流を求めるためのO.H.Schadeのグラフの記載もあります。
    いずれにしても、平均負荷電流IDCの1.5倍〜2倍程度の定格のダイオードを選定するのが
    無難(?)と思われます。

  8. 関連項目

    1. 電子回路−整流回路の動作
    2. 電子回路−平滑回路の動作
    3. 変圧器の原理
    4. ダイオードの静特性

  9. 参考文献

    1. 実用電源回路設計ハンドブック(2002 第21版) 第1章 整流回路の設計法、戸川治朗著、CQ出版社
    2. 電子回路の基礎マスター(2009 第1版第1刷)7-1 電源回路、船橋一郎著、電気書院
    3. トランジスタ回路の実用設計(2005 初版)、渡辺明禎著、CQ出版社
    4. トランジスタの実用回路入門(2003 第1版第1刷) 3.2整流用ダイオード、富山忠宏著、オーム社
    5. 電源回路の「しくみ」と「基本」(2012 初版 第1刷)第2章 トランスと整流回路だけの電源、渡辺昭二著、技術評論社
    6. 実用電子回路設計ガイド(2002 第16版)付録F.5 平滑回路とリップル含有率、見城尚志・高橋久共著、総合電子出版社
    7. Linear & Switching Voltage Regulator Handbook, Section 8
    8. トランジスタ技術 2000年5月号、第7章 基礎から学ぶ整流回路の設計、瀬川毅 CQ出版社

  10. 付録(変圧器1次側のインピーダンスの影響の検討)

  11. 整流回路のダイオードに流れる電流や突入電流のピーク値を見積る際に変圧器の
    2次側巻線抵抗(Rs)が必要にとなります。文献1 では配線インピーダンスも影響するが、
    主たる要因となるRsのみを考慮すればよいとしています。
    文献3ではRsに加えてダイオードの順方向等価抵抗が 影響するとしています。
    また、文献8では変圧器の1次側インピーダンスと 平滑回路のコンデンサーの容量も
    シミュレーションで考慮しています。

    ここでは、少し意外な(?)変圧器の1次側インピーダンスの影響について簡単なモデルで
    検討してみます。
    RLは負荷抵抗です。r2は変圧器の2次側巻線抵抗、ダイオードの
    等価抵抗、2次側配線インピーダンスなどの合計です。
    r1は変圧器の1次側巻線抵抗、1次側配線インピーダンス、そして電圧源の内部抵抗です。
    電圧源の内部抵抗は実際は、発電所までの等価的な内部抵抗値になるかと思います。


    n1:n2は変圧器の巻線比ですので、 v1:v2 = n1:n2より
    v1*n2 = v2*n1
    ∴ v2 = (n2/n1)*v1 ・・・・・・(1)

    変圧器は無損失であるとすれば、1次側と2次側の電力は同じとなるので、
    v1*i1 = v2*i2
    この式に(1)式を代入すると、
    ∴ i1 = (n2/n1)*i2 ・・・・・・(2)

    1次側では次の関係式が成り立ちます。
    v1 = E - i1*r1 ・・・・・・(3)

    (3)式に(2)式に代入すると
    v1 = E - (n2/n1)*i2*r1 ・・・・・・(4)

    (1)式に(4)式を代入して
    v2 = (n2/n1) * {E - (n2/n1)*i2*r1} ・・・・・・(5)

    一方2次側では次の関係式が成り立ちます。
    i2 = v2/(r2 + RL) ・・・・・・(6)

    (6)式を(5)式に代入してv2の式に変形します。
    v2 = (n2/n1) * {E - (n2/n1)*r1*v2/(r2 + RL)}
    v2 = (n2/n1) * E - (n2/n1)2 * r1*v2/(r2 + RL)
    v2 + (n2/n1)2 * r1*v2/(r2 + RL) = (n2/n1) * E
    v2 {1 + (n2/n1)2 * r1/(r2 + RL)} = (n2/n1) * E
    v2 = (n2/n1) * E /{1 + (n2/n1)2 * r1/(r2 + RL)}  ・・・・・・(7)

    i2 = v2/(r2 + RL)なので、(7)式を代入して
    i2 = [(n2/n1) * E /{1 + (n2/n1)2 * r1/(r2 + RL)}] /(r2 + RL)
    i2 = (n2/n1) * E /{(r2 + RL) + (n2/n1)2 * r1}
    ∴ i2 = E/{(n1/n2) * (r2 + RL) + (n2/n1) * r1}  ・・・・・・(8)

    を得ます。
    だいぶごちゃごちゃしてきました。(笑)
    要するに式の赤い部分の(n2/n1) * r1が1次側インピーダンスの
    影響です。(いわゆる、変圧器のインピーダンス変換作用ですね。)
    もしr1=0ならば、
    i2 = E/{(n1/n2) * (r2 + RL)} = E * (n2/n1) / (r2 + RL) = v2 / (r2 + RL)

    となるので、判りやすい式になります。
    突入電流を考える際、(8)式のうち、RLが平滑コンデンサーにより短絡されますので、
    RL=0と置くと、
    i2(sarge) = E/{(n1/n2) * r2 + (n2/n1) * r1}

    となることから、r1を考慮した場合の方が、突入電流が小さくなるはずです。
    ですが、言うまでもなく、r1がいくらになるかを見積もることは困難です。
    結局、1次側インピーダンス(r1)を考慮しないで問題なければ、
    突入電流も問題ないということになりそうです。


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