JH8CHUのホームページ> バイポーラ・トランジスタのデバイス実験 >エミッタフォロワーの実験

エミッタフォロワーの実験


本ページ作成(2015/04/25)
  1. 実験の目的

    エミッターフォロワー(コレクタ接地増幅回路)を動作させ、
    回路の特徴であるインピーダンス変換作用について確認します。
  2. 実験課題

    下記の項目について簡易測定を行い、設計値と測定値を比較します。

    1. 直流動作点
    2. 電圧増幅度
    3. 入力インピーダンス
    4. 出力インピーダンス

  3. 実験回路



  4. 回路の動作

    トランジスタのコレクタを共通端子とした増幅回路です。
    コレクタは直接Vccに接続しますが、Vccは交流的にはグランド(GND)と同電位
    なので、コレクタ接地(共通)回路となります。
    出力はエミッタの抵抗REの両端から取り出しますが
    REは同時に直流的な負帰還をかける動作もしています。
    また、実は同時に交流負帰還もかかっています。
    単純に考えると、voはviより直流分のVBE(=約0.7V)分、電圧が低くなるだけなので
    電圧増幅度はほぼ1となります。


  5. 実験回路の設計

    まず、直流動作点を決めるために、バイアス回路の設計をします。

    1. 設計条件
        (1)電源は乾電池1.5V×4本=6Vとします。
        (2)コレクター電流:Ic=3mA
        (3)エミッタ抵抗REの両端の電圧:VE=3V
        (4)トランジスタは2SC1815のYランクを使う(データシートよりhFE=120〜240)
        (5)増幅する周波数帯域の最低周波数は50Hz
        (6)信号源の出力インピーダンスは0.91[kΩ]
        (7)負荷側インピーダンスは1[kΩ]。

        ドライブ能力を持たせるためにコレクタ電流をやや多めの3mAとしました。
        また、出力電圧はREから取り出すため、電源電圧Vccの約半分の3Vとしました。


    2. バイアス回路の設計
        (1)REの計算
         RE = VE/IE ≒ VE/Ic = 3[V]/3[mA] = 1[kΩ]
         ∴RE =1[Ω]

        (2)R1、R2の計算
         VBEを0.7[V]とすると、VE=3[V]としたので、R2の両端の電V1は
         3.7[V]となります。
         一方、R1、R2に流すブリーダー電流はIBの約10倍に設定します。
         トランジスタのhFEを120(min)とすれば、
         IB = Ic/hFE = 3[mA]/120 = 25[μA]

         なので、ブリーダ電流をIBの10倍の0.25[mA]とすれば、
         R1 + R2 = Vcc/(ブリーダ電流) = 6[V]/0.25[mA] = 24[kΩ]
         よって、  R2 ≒ 3.7[V]/6[V] * 24[kΩ] = 14.8[kΩ]
         R1 = 24[kΩ] - 14.8[kΩ] = 9.2[kΩ]

         実際は、E-6系列より選定して、R1 = 10[kΩ]
         R2はE-6系列より選定するとR2 = 15[kΩ]となりますが、
         手持ち部品の都合でR2 = 22[kΩ]
         とします。

         以上、選定した抵抗の定数から、改めて各部の電圧、電流を
         計算し直してみると、
         ベースの電圧:V1 ≒ Vcc * R2/(R1 + R2) = 6[V] * 22[kΩ]/(10[kΩ] + 22[kΩ]) = 4.1[V]
         エミッタの電圧:VE = V1 - VBE ≒ 4.1 - 0.7 = 3.4[V]
         コレクタ電流:Ic ≒ エミッタ電流:IE = VE/RE = 3.4[V]/1[kΩ] = 3.4[mA]
         となります。


    3. 増幅回路の等価回路
        交流の等価回路ではカップリング・コンデンサのCi、Coは
        短絡して考えます。増幅する周波数帯ではコンデンサのリアクタンスが十分小さく
        なるように値を決めるため、交流的には短絡して考えるのですが、
        その値を決めるためには、入力インピーダンスの計算が必要なので、
        手順が前後するように見えますが、まず、増幅回路の等価回路から
        2個のコンデンサCi、Coを短絡した下図の等価回路で考えます。
        トランジスタはコレクタ接地の 小信号簡略等価回路に置き換え、
        また、Vccとグランド(GND)も交流的には同電位なので接続してあります。


        計算にあたってhic(=hie)の値が必要になりますが、 概算式である
        hie = β/(40 * Ic)

        の式を用います。
        バイアス回路の設計の項で記述したように、今回の実験回路では、Ic =3.4[mA]です。
        また、本実験に使用するトランジスタのβは 静特性の測定実験で測定した値を
        使用すると175になりますので
        hie = β/(40 * Ic) = 175/(40 * 0.0034) = hic
        hic=1287[Ω]

        となります。

    4. 入力インピーダンスの計算
        導出は少し面倒ですが下記の式で与えられます。
        Zi = RB//[hic + (β + 1)*R]

        設計条件より、負荷回路のインピーダンスは1[kΩ]としましたので、
        Zi = (10[kΩ]//22[kΩ])//{1287 + (175 + 1)*(1[kΩ]//1[kΩ]}
          = (6.9[kΩ])//{1287 + 176*0.5[kΩ]}
          = (6.9[kΩ])//{1287 + 88[kΩ]}
          = (6.9[kΩ])//(89.3[kΩ])
        Zi = 6.4[kΩ]

    5. 出力インピーダンスの計算
        導出は少し面倒ですが下記の式で与えられます。
        Zo = RE//[(hic + ρ)/(β + 1)]

        設計条件より、信号源インピーダンスは0.91[kΩ]としましたので、
        ρ = R1//R2//Rs = 10[kΩ]//22[kΩ]//0.91[kΩ]
         = 0.80[kΩ]
        Zo = 1[kΩ]//{(1287[Ω] + 0.8[kΩ])/(175 + 1)}
          = 1[kΩ]//{2087[Ω]/176}
          = 1[kΩ]//{11.9[Ω]}
        Zo = 11.8[Ω]

        となります。

    6. 増幅度の計算
        導出は少し面倒ですが下記の式で与えられます。
        Av = (β+1) * R/[(β+1) * R + hic]

        Av = (175 + 1)*0.5[kΩ]/{(175 + 1)*0.5[kΩ] + 1287[Ω]}
          = 176*0.5[kΩ]/{176*0.5[kΩ] + 1287[Ω]}
          = 88[kΩ]/{88[kΩ] + 1287[Ω]}
          = 88[kΩ]/{89.3[kΩ]}
          = 0.985
        Av = 0.985 ≒ 1

        となります。

    7. コンデンサの容量の決定
        (1)実験回路の等価回路
        トランジスタをエミッタ接地の 小信号簡略等価回路に置き換え、
        また、VccとGNDは交流的には同電位であることから接続してしまうと
        実験回路の小信号等価回路は下図のようになります。


        (2)入力コンデンサ(Ci)
        入力インピーダンス:Ziが上記で表されますので、入力コンデンサ:CiとZiは
        下図のようにローカット・フィルター(LCF)を構成します。
        この影響をなくすためには、フィルタのカットオフ周波数が
        信号の最低周波数より十分小さくなるようにCiを決定します。


        信号の最低周波数:fsを50Hzとすれば
        Ci >> 1/(2π*fs*Zi)
        の関係式より
        Ziの値は入力インピーダンスの項で計算したように
        Zi = 6.4[kΩ]
        でしたので、
        Ci >> 1/(2π*fs*Zi) = 1/(2π*50*6400)=0.5[μF]
        電解コンデンサは経年変化により静電容量が減少しますので、
        少なくとも計算値の2倍は欲しいところです。
        今回は、計算値より大き目で、かつエミッタ接地増幅回路と同じ値とし
        10[μF]としました。


        (3)出力コンデンサ(Co)
        Coの値を決めるためには本増幅回路の次段の回路の入力抵抗:RL
        決まらないと計算出来ません。


        ここでは、RL=1[kΩ]と仮定して、計算すると
        Co >> 1/(2π*fs*RL) = 3.2[μF]
        となります。
        しかし、今回の実験では出力インピーダンスZoを測定する際には、
        RLが1[kΩ]より小さくなることが予想されます。
        そこで、Co=470[μF]と大きなコンデンサをつけたとき、
        逆に、カットオフ周波数が50[Hz]となるRLを計算すると
        RL = 1/(2π*fs*Co) = 1/(2π*50*470[μF])
         = 6.8[Ω]

        となり、1[kΩ]よりかなり小さくなります。
        実際には、負荷抵抗RLをあまり小さくすると出力がクリップするため
        6.8[Ω]よりかなり大きな値しかとれなので、Co=470[μF]で十分です。

  6. 実験方法

    1. 電子ブロックの配置


    2. 直流動作点の測定
      ディジタルテスターの直流電圧測定レンジで、下図に示すようにVCE、VE
      V1、VBEを測定します。IcはVEとREの値から Ic ≒ IE = VE/REの式により求めます。
      また、電源電圧Vccも正確に6.0[V]ではないので、測定しておきます。


    3. 電圧増幅度の測定
      (1)下図の測定回路を組立てます。


      (2)viの値を読みます。
      (3)voの値を読みます。
      (4)viの値とvoの値から電圧増幅度Av=vo/viを求めます。

    4. 入力インピーダンスの測定
      増幅回路における入力インピーダンスの簡易測定法によります。

      (1)下図の測定回路を組立てます。
        負荷抵抗RLの値が入力インピーダンスZiに影響するので、増幅回路の出力には
        1[kΩ]の抵抗器を接続します。
        また、信号源インピーダンスが大きいと測定誤差になるため、分圧抵抗は
        1[kΩ]と100[Ω]としました。


      (2)VRを0[Ω]の状態にしてvoの値を読み取ります。
       この時のvoの読みをvo0とします。
      (3)voの値が1/2*vo0となるようにVRを調整します。
      (4)VRを回路から外し、テスターの抵抗レンジでVRの値を読み取ります。
       この時のVRの値がZiとなります。

    5. 出力インピーダンスの測定
      増幅回路における出力インピーダンスの簡易測定法によりますが
      負荷が重たくなると、出力波形がクリップしてしまいます。
      そこで下図のようにして測定しました。
      まず、SWが開状態のときのvoの読みをvo0とします。
      次にSWを閉状態でVRを調整したとき、VRの値が50*Zoなら、voの読みはvo0*(50/51)となります。
      よってこのときのVRの抵抗値を読み取って、50で割れば、それはZoになります。
      なお、Zoは信号源のインピーダンスが影響します。ここでは10[kΩ]//1[kΩ]=0.91[kΩ]となります。


      (1)下図の測定回路を組立てます。


      (2)SWを開放の状態にしてvoの値を読み取ります。
       この時のvoの読みをvo0とします。
      (3)SWを閉じてからvoの値が(50/51)*vo0となるようにVRを調整します。
      (4)VRを回路から外し、テスターの抵抗レンジでVRの値を読み取ります。
       この時のVRの値を50で割るとZoとなります。

      なお、SWについては、実際は配線を取り外すことにより解放しました。

  7. 実験機材

    1. 電子ブロック
    2. トランス・ボックス
    3. 5kΩの可変抵抗器
    4. 20kΩの可変抵抗器
    5. 固定抵抗器:10kΩ(1%)、1kΩ(1%)、10Ω(1%)
    6. ディジタル・テスター
    7. 乾電池:1.5V×4本、乾電池ホルダー
    8. 配線材

  8. 実験結果

    1. 直流動作点の測定
      下図に測定結果を示します。
      白色の吹き出しで計算値、黄色の吹き出しで測定値を表しました。


    2. 増幅度の測定
      viの値 [V]voの値 [V] Av (測定値)Av (計算値) 測定値/計算値 (%)備考
      0.5410.5230.967 0.985-1.8 
      Av(測定値) = vo/vi

    3. 入力インピーダンスの測定
      VRの値 [Ω]voの値 [V]備考
      00.656voのこの値がvo0
      61800.328(vo=1/2 * vo0)

      以上の測定結果より、
      Zi = 6180[Ω]

      Ziの計算値と測定値を比較すると、
      Zi (計算値) [Ω]Zi (測定値) [Ω] 測定値/計算値 (%)備考
      64006180-3.4 


    4. 出力インピーダンスの測定
      VRの値 [Ω]voの値 [V]備考
      ∞ (SW:開放)0.520voのこの値がvo0
      570 (SW:短絡)0.510(vo=50/51 * vo0)

      以上の測定結果より、
      Zi = 570/50 = 11.4[Ω]

      Zoの計算値と測定値を比較すると、
      Zo (計算値) [Ω]Zo (測定値) [Ω] 測定値/計算値 (%)備考
      11.811.4-3.4 


  9. 測定結果・考察

    (1)下記のいずれの項目も、設計値と測定値は概ね一致しました。
    電圧増幅度はほぼ1に近い値となりました。


    (2)エミッタ・フォローの特徴である出力インピーダンスZoが小さいことが確認出来ました。
    一方、入力インピーダンスZiはR1とR2がトランジスタと並列になるため
    増幅回路としてはあまり大きくならないことが判りました。
  10. 今後の課題

    1. 周波数特性の測定
      周波数特性は増幅回路の基本的な特性のひとつですが、今回の実験では
      信号源として発振器ではなく、トランス・ボックスを使用する方針としたので
      周波数特性の測定は断念しました。

    2. ひずみ率の測定
      用途によってはひずみ率も重要な特性ですが、ひずみ率計が手元にないため
      将来の課題としました。

  11. 参考文献

    1. 実験で学ぶ最新トランジスタ・アンプ設計法(1988 4版)、黒田徹著、ラジオ技術社
    2. 定本トランジスタ回路の設計(1991 初版)、鈴木雅臣著、CQ出版社
  12. >関連項目

    1. 電子回路-エミッタ・フォロワー
  13. 実験中の様子

    1. 入出力波形
      viとvoの波形。位相は同相です。


    2. クリップ波形
      負荷が重くなると出力波形の下側がクリップします。




JH8CHUのホームページ> バイポーラ・トランジスタのデバイス実験> エミッタフォロワーの実験


Copyright (C)2015 Masahiro.Matsuda(JH8CHU), all rights reserved.