JH8CHUのホームページ> バイポーラ・トランジスタによる増幅回路の実験 >差動増幅回路の実験(1)

差動増幅回路の実験(1)


本ページ作成。(2025/09/14)
  1. 実験の目的

  2. 差動増幅回路の機能と動作原理を理解し、実験回路の設計と実験により
    機能と設計結果の確認を行います。
    差動増幅回路にはいくつかのバリエーションがありますが、今回の実験では
    定電流源は使わず抵抗器(RE)とします。

  3. 実験課題

  4. 下記の項目について測定を行い、設計値と測定値を比較します。
    1. 直流動作点
    2. 波形確認
    3. 差動利得
    4. 同相利得
    5. CMRR

  5. 実験回路



  6. 回路の動作

  7. ふたつある入力(vi1、vi2)の差分に比例した出力が得られる増幅回路です。
    出力もふたつ(vo1、vo2)ありますが、ふたつの出力は同じ波形で位相が
    180°ずれています。出力は必ずしも両方使う必要はありません。
    ふたつあるトランジスタのエミッタ端子は共通になっています。

    抵抗REは定電流源にする方が性能がよくなりますが、今回は抵抗のままで実験します。 
    電源はプラスマイナスの電源にした方が、バイアス回路が簡単になるので、電池を使用して
    マイナス側電源としました。このためプラス側とマイナス側とで電源電圧が異なりますが
    その前提でバイアス設計すれば支障はありません。
    差動増幅回路の詳細な動作はこちらを参照してください。

  8. 実験回路の設計

  9. まず、直流動作点を決めるために、バイアス回路の設計をします。

    1. 設計条件
    2. (1)使用するトランジスターはTr1、Tr2とも2SC1815のYランク。
      (2)電源電圧は+10[V]、-6[V]とします。
        差動増幅回路はプラス・マイナスの電源にした方がバイアス回路が簡単になります。
        今回は、マイナス側のみ電池を使うこととしたので、プラス側とマイナス側で
        非対称な電圧としました。
      (3)コレクター電流:Ic1=Ic2=1mA
      (4)電圧増幅度: 規定はしません。
       が、結果的に実験回路において理論上いくらになるかを計算し、測定結果と比較します。
      (5)増幅する周波数帯域の最低周波数は50Hz
      (6)入力側(信号源)の出力インピーダンスは600[Ω]
       (これは発振器の出力インピーダンスです)
      (7)出力側(負荷)の入力インピーダンスは1[MΩ]
       (これはテスターアダプターの入力インピーダンスです)

    3. バイアス回路の設計
    4. 以上決定した抵抗の値から、改めて各部の電圧と電流を再計算すると。
      IE1 + IE2 = (Vcc - VBE1 - VEE) / RE = (- 0.6 - 0.6 - (- 6)) / 2200[Ω] ≒ 2.18[mA]

      IE1とIE2が等しいならば
      IC1 ≒ IE1 = 2.18[mA] / 2 = 1.09[mA] ≒ 1.1[mA]

      RC1での電圧降下VC1
      VC1 = IC1 * RC1 = 1.1[mA] * 4700 ≒ 5.2[V]

      となりました。再計算した結果を下図に纏めます。


    5. 増幅回路の等価回路

    6. 電圧増幅度の計算
    7. 同相利得の計算
    8. CMRRの計算
    9. 出力インピーダンスの計算
    10. 入力インピーダンスの計算

    11. コンデンサの容量の決定
      1. 入力コンデンサ(Ci1、Ci2)
      2. CiはZiおよび信号源内部抵抗(Rs)とともにローカットフィルターを
        形成します。
        そのカットオフ周波数をfciとすれば、
        fci = 1/{2π * Ci * (Rs + Zi)}


        Ziは入力インピーダンスの項で計算しました。
        設計条件よりRs=600[Ω]になります。
        (Rsが不明の場合はワースト・ケースとしてRs=0と考えて計算してもよいでしょう。)
        信号の最低周波数をfsとすれば
        fs >> fci

        となるようにCiを決定すればよいことになります。よって
        fs >> 1/{2π * Ci * (Rs + Zi(max))}
        ∴Ci >> 1/{2π * fs * (Rs + Zi(max))}

        設計条件より入力信号の最低周波数(fsl)を50[Hz]とします。
        Ci >> 1/{2π * 50 * (600 + 8182)} ≒ 0.36[μF]

        となりかなり小さな値ですみます。今回は Ci1 = Ci2 = 10[μF]としました。

      3. 出力コンデンサ(Co)
      4. 出力コンデンサー(Co)と出力インピーダンス(Zo)と負荷抵抗(ZL)は
        ローカット・フィルターを構成します。カットオフ周波数(fco)は
        fco = 1/{2 * π * Co * (Zo + ZL)}

        となります。


        信号の最低周波数をfsとすれば
        fs >> fco
        となるようにCoを決定すればよいことになります。よって
        fs >> 1/{2π * Co * (Zo + RL)}
        ∴Co >> 1/{2π * fsl * (Zo + RL)}

        まず、出力インピーダンスの項で計算した結果からZoは
        Zo ≒ 4700[Ω]

        設計条件よりRL = 1[MΩ]、
        入力信号の最低周波数(fsl)を50[Hz]とします。
        Co >> 1/{2π * 50 * (1[MΩ] + 10[kΩ])} ≒ 0.003[μF]

        となり小さな値ですみます。
        今回は手持ちのコンデンサーの関係で Co1 = Co2 = 22[μF]としました。

  10. 実験方法


    1. 電子ブロックの配置
    2. 電子ブロックで実験回路を下図のように組み立てます。


    3. 直流動作点の測定
      電子ブロックで回路を組み立てたら電源VCC(10V)と電源電圧VEE(6V)を 接続します。
      ディジタルテスターの直流電圧測定レンジで、下図に示すように VC1、VC2、VE
      VB1、VB2を測定します。 IC1はVC1とRC1の値から IC1=VC1/RC1の式により求めます。
      また、IC2もVC2とRC2の値から IC2=VC2/RC2の式により求めます。
      また、電源電圧VCCと電源電圧VEEも正確に10.0[V]と6.0[V]ではないので、
      測定しておきます。


    4. 増幅波形の観測・増幅度の測定
      以下の手順において交流電圧計とは、 テスターアダプタアナログ直流電圧計 のことです。

      (1)vi1に低周波発振器(1k[Hz])を接続します。
      (2)vi2はグランド(GND)に接続します。【必須】
      (3)交流電圧計でvi1を測定し、低周波発振器の出力を10[mV]に設定します。
        (20[mV]にすると、出力が多少歪むようです)
      (4)交流電圧計でvo1を測定し、オシロスコープで波形を観測します。
      (5)交流電圧計でvo2を測定し、オシロスコープで波形を観測します。
      (6)vi1の低周波発振器とvi2のグランド接続を外します。

      (7)vi2に低周波発振器(1k[Hz])を接続します。
      (8)vi1はグランド(GND)に接続します。【必須】
      (9)交流電圧計でvi2を測定し、低周波発振器の出力を10[mV]に設定します。
        (20[mV]にすると、出力が多少歪むようです)
      (10)交流電圧計でvo1を測定し、オシロスコープで波形を観測します。
      (11)交流電圧計でvo2を測定し、オシロスコープで波形を観測します。
      (12)vi1のグランド接続とvi2の低周波発振器を外します。

    5. 同相増幅の波形観測・同相利得の測定

    6. (1)vi1とvi2に低周波発振器(1k[Hz])を接続します。
      (2)交流電圧計でvi1(またはvi2)を測定し、 低周波発振器の出力を20[mV]に設定します。
      (3)交流電圧計でvo1を測定し、オシロスコープで波形を観測します。
      (4)交流電圧計でvo2を測定し、オシロスコープで波形を観測します。

  11. 実験機材

    1. 電子ブロック
    2. 低周波発振器
    3. テスターアダプタ
    4. アナログ直流電圧計
    5. 簡易安定化電源 (10[V]端子)
    6. 乾電池:1.5[V]×4
    7. ディジタル・テスター
    8. オシロスコープ

  12. 実験結果

    1. 直流動作点
    2. 下図にに測定結果を示します。
      白色の吹き出しが設計値(理論値)、黄色の吹き出しが測定値です。
      Ic2がやや計算値より小さいですが、トランジスタのバラツキ
      によるものと推定します。他は概ね設計値に近いと考えます。


    3. 波形観測
    4. vi1入力
      電圧
      vi2入力
      電圧
      出力(vi1)波形 出力(vi2波形) 備考
      20[mV] 0[mV]
      上:vi1、5mV/div、0.5ms/div
      下:vo1、1V/div、0.5ms/div

      上:vi1、5mV/div、0.5ms/div
      下:vo2、1V/div、0.5ms/div
      0[mV] 20[mV]
      上:vi2、5mV/div、0.5ms/div
      下:vo1、1V/div、0.5ms/div

      上:vi2、5mV/div、0.5ms/div
      下:vo2、1V/div、0.5ms/div
      20[mV] 20[mV]
      上:vi1、50mV/div、0.5ms/div
      下:vo1、50mV/div、0.5ms/div

      上:vi2、50mV/div、0.5ms/div
      下:vo2、50mV/div、0.5ms/div
      同相入力

    5. 電圧増幅度
    6.  入力[mV]  出力  増幅度  備考
       vi1  vi2  vo1  vo2 vo1実測値 vo2実測値 理論値(絶対値) 偏差
      10 0 -0.96[V] 0.96[V] vo1/vi1 = -96 vo2/vi1 = 96 103 -6.8[%]
      0 10 1.00[V] -1.00[V] vo1/vi2 = 100 vo2/vi2 = -100 103 -2.9[%]
      20 20 -24[mV] 20[mV] vo1/vi1 = 1.2 vo2/vi2 = 1.0 1.068 12[%]/-6.4[%] 同相入力

    7. CMRR
    8. 今回は逆相の入力を用意出来なかったので(差動増幅回路をもう1回路用意
      すれば良かったのですが。笑)、vi1またはvi2のみ入力したときの
      利得(増幅度)で計算します。この値は差動利得Adの1/2です。
      そして、vi1のみ入力したときの利得(増幅度)は96で、
      vi2のみ入力したときの利得(増幅度)は100なので、とりあえず(?)
      平均すると98です。一方実験から得られた同相利得(Ac)の値も1.2と1.0なので、
      これも平均をとると1.1となるので、実験結果からCMRRを求めると
      CMRR = |Ad| / |Ac| = (2 * 98) / 1.1 ≒ 178.2

      CMRR実測値 CMRR理論値 偏差
      178.2 193.6 -8.0[%]

  13. 測定結果・考察

    1. 直流動作点
    2. 今回使用したトランジスタは同一ロットではないことから、hパラメータが異なる
      と考えられ、多少バランスが悪くなりました
      トランジスタに同一ロットのものを使用したり、デュアルトランジスタを
      使用すればバランスは改善すると期待されます。

    3. 波形観測
    4. (1)vi1に対し、vo1は逆位相、vo2は同位相となりました。
      (2)vi2に対し、vo1は同位相、vo2は逆位相となりました。
      (3)同相入力に対しては理論値とほぼ一致する出力が発生しました。(次項参照)

    5. 電圧増幅度
    6. (1)差動利得
       実測値と理論値とで約7[%]の偏差がありましたが、トランジスタのバラツキなどで
       この程度の偏差はやむなしと考えます。よって、実測値と理論値は概ね一致している
       と判断します。
       
      (2)同相利得
       理想的な差動増幅では同相入力に対して出力は0ですが、今回の実験回路は
       理想的でないため、出力が発生しました。
       実測値と理論値とで約12[%]の偏差がありましたが、トランジスタのバラツキなどで
       この程度の偏差はやむなしと考えます。よって、実測値と理論値は概ね一致している
       と判断します。

    7. CMRR
    8. 実測値と理論値とで8[%]の偏差がありましたが、トランジスタのバラツキなどで
      この程度の偏差はやむなしと考えます。よって、実測値と理論値は概ね一致している
      と判断します。

  14. 今後の課題

    1. REを定電流源に置換えて、今回の実験結果と比較する。

  15. 参考文献

    1. 2SC1815データシート

  16. 関連項目

    1. トランジスタ増幅回路の解析−差動増幅回路の解析
    2. 電子回路−バイポーラトランジスタの等価回路
    3. 電子回路−トランジスタのhパラメータ
    4. 抵抗器に関する情報−E6系列
    5. 自作電子ブロック
    6. 低周波発振器
    7. 簡易安定化電源
    8. テスターアダプタ
    9. アナログ直流電圧計


JH8CHUのホームページ> バイポーラ・トランジスタによる増幅回路の実験> 差動増幅回路の実験(1)


Copyright (C)2025 Masahiro.Matsuda(JH8CHU), all rights reserved.