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シュミット・トリガの実験


本ページ作成。(2025/11/17)
  1. 実験の目的

  2. シュミット・トリガの実験回路を設計し、実際に回路を組み立て動作を確認します。
    動作確認は、まずシュミット・トリガのふたつの安定点の直流レベルが設計通りか測定し、
    次に正弦波を入力して出力波形を観察します。

  3. 実験課題

  4. 下記の項目について測定を行い、設計値と測定値を比較します。

    1. 安定点における直流レベル測定
    2. 波形確認

  5. 実験回路



  6. 回路の機能と動作

  7. シュミット・トリガは入出力特性にヒステリシスを持たせた回路です。
    ヒステリシスとはLowレベルからHighレベルに遷移する電圧レベル(Vh+)と
    HighレベルからLowレベルに遷移する電圧レベル(Vh-)が異なることを言います。(Vh+ > Vh-)


    シュミット・トリガを使うことにより、ゆっくり変化する入力信号の立上がり、立ち下がり
    を早くしてノイズの影響を受けずらくすることが出来ますが、伝搬遅延時間が長くなるという
    デメリットもあります。


    シュミット・トリガ回路の動作を以下の図に示します。

    シュミット・トリガの詳細な動作は こちらを参照してください。

  8. 実験回路の設計

  9. 与えられた設計条件により設計の手順は変わってくると思われます。

    1. 設計条件
    2. (1)使用するトランジスターはTr1、Tr2とも2SC1815のYランク。
      (2)電源電圧は+6[V]、-10[V]とします。
        (4)項に示す通り、入力電圧がマイナスにも振れるので、電源も
        プラス・マイナスの電源が必要です。
        プラス側のみ電池を使うことにしました。
        マイナス側電源を高くしたかったので安定化電源を10[V]としました。
      (3)出力電圧の振幅: 3[V]程度

      (4)入力電圧: 0[V]を中心とした振幅が2[Vp-p]の正弦波交流。
       なお差動入力(Vi1とVi2の差)の電圧は大き過ぎるとトランジスタを
       破損してしまう危険があります。大きな差動入力は
       トランジスタのベース〜エミッタ間の最大逆方向電圧(VEBO)を超えて
       しまうからです。詳細は こちらを参照してください。
      (5)入力電圧と出力電圧の関係
       Vccは設計条件から6[V]に決めており、かつ出力電圧(Vo)のHighレベルは
       Vccと等しくなるので、VoのHighレベルは6[V]となります。
       出力電圧(Vo)のLowレベルは入力電圧(Vi)の最大値(今回は約1.0[V])より大きく
       する必要があります。何故なら、VoのLowレベルがViの値を下回ると
       トランジスタのコレクタ電圧がベース電圧を下回ることと同じなので、
       トランジスタが飽和状態になるからです。
       今回はVoの振幅を3[V]としたのでLowレベル= (Vcc - 3.0) = 3.0[V]になるよう設計します。
       これはViの最大値1.0[V]より大きな値なのでトランジスタは飽和しません。
        

    3. 閾値電圧の設定

    4. 設計の基準電圧

    5. REの選定

    6. RC2の選定

    7. RB2の選定

    8. RC1の選定

    9. RB1の選定

    10. 安定点における直流電圧
    11. 以上で抵抗器の値が決定したので、改めてふたつの安定状態における各部の
      電圧と電流を計算し直しました。
    12. Tr1のベース抵抗
    13. Tr1のベースとGND間(つまりViと並列)に10[kΩ]を接続していますが、
      発振器の出力が直流的に浮いているため、直流レベルを確定し、
      かつトランジスタのベースに電流を流すことが目的なので、
      今回の実験では必須です。
  10. 実験方法

    1. 電子ブロックの配置
    2. 電子ブロックで実験回路を下図のように組み立てます。


    3. 安定点における直流電圧測定
      下図のように1.5[V]の電池をViに接続し各部の電圧・電流を測定します。

      ・-1.5[V]を入力(Tr1をOFF、Tr1をONの状態)


      ・+1.5[V]を入力(Tr1をON、Tr1をOFFの状態)


      ディジタル・テスタを使い下図の箇所の電圧・電流を、
      VEEを基準に測定します。


    4. 正弦波入力に対する出力波形の観察
      波形観測の際の 信号源としては、低周波発振器
      使用します。周波数は1kHzとしました。
      出力レベルは発振器で2[Vp-p]に調整します。
      Viの値の設定には テスターアダプタアナログ直流電圧計 を使用し、
      テスターアダプタはpeak to peakモードにしました。
      (厳密に設定する必要はないので、オシロスコープでだいたいの
       レベルに設定しても良いと思います。)


      最後に入力電圧(Vi)のレベルを下げて、出力の矩形波が出なくなることを
      確認します。

  11. 実験機材

    1. 電子ブロック
    2. 低周波発振器
    3. テスターアダプタ
    4. アナログ直流電圧計
    5. 簡易安定化電源 (10[V]端子)
    6. 乾電池:1.5[V]×4 (VCC用)
    7. 乾電池:1.5[V] (Vi設定用)
    8. ディジタル・テスター
    9. オシロスコープ

  12. 実験結果

    1. 安定点における直流電圧測定
    2. ・-1.5[V]を入力(Tr1をOFF、Tr1をONの状態)
       白の吹き出しが計算値、黄色の吹き出しが実測値。


      ・+1.5[V]を入力(Tr1をON、Tr1をOFFの状態)
       白の吹き出しが計算値、黄色の吹き出しが実測値。


    3. 波形観測


    4. 上:Vi、1V/div、0.5ms/div
      下:Vo、2V/div、0.5ms/div

    5. 拡大観測

    6. 波形観測(入力(Vi)をしぼったとき)
    7. 入力を0.5[Vp-p]まで小さくすると出力が停止しました。
      閾値のVth+th-が対称でないので、何とも言えませんが
      実際の閾値は計算値よりもやや小さな幅になると思われます。

      上:Vi、1V/div、50μs/div
      下:vo、2V/div、50μs/div

  13. 測定結果・考察

    1. 安定点における直流電圧測定
    2. ・+1.5[V]を入力(Tr1をON、Tr1をOFFの状態)
      ・-1.5[V]を入力(Tr1をOFF、Tr1をONの状態)
      のいずれにおいても閾値(VB)がやや計算値より低いように見えますが、
      VGND(E)が9.7[V]ですので、対グランドに対する閾値電圧は
      Vth+ = 0.36[V]
      Vth- = -0.40[V]
      ですので、概ね設計値と実測値は近い値になったと考えます。
      RB2を流れるブリーダー電流が小さく見えるのはVccとVC
      電圧差が小さいので有効数字の関係で誤差が大きくなったようです。
      RC1の両端の電圧を直接測定すれば、もっと誤差を小さく出来たと思います。

    3. 波形観測

  14. 今後の課題

    1. 応用
    2. 今後開発予定のパルス発生器(トランジスタで実現)において、外部信号の入力部に
      シュミット・トリガ回路を使用することを検討しています。

  15. 参考文献

    1. 2SC1815データシート
    2. パルス回路の設計(昭和56年(1981) 第20版(改訂10版)) P-76〜81 シュミット・トリガ、猪飼國夫著、 CQ出版社
    3.   この文献の例題2.11はよく判らなかったです。(-_-?
    4. CQ出版社、CQ connect−シュミット・トリガの2つのしきい値
    5. https://cc.cqpub.co.jp/system/contents/3352/

  16. 関連項目

    1. トランジスタ・パルス回路の解析− シュミット・トリガ回路の解析
    2. トランジスタ・パルス回路の解析− カレント・スイッチ
    3. 抵抗器に関する情報−E6系列
    4. 自作電子ブロック
    5. 低周波発振器
    6. 簡易安定化電源
    7. テスターアダプタ
    8. アナログ直流電圧計


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