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DTLによるNANDの実験
本ページ作成。(2026/08/22)
実験の目的
DTL(Diode Transister Logic)の構成にて実現したNAND回路を設計し、
実際に組み立て、その入出力特性を測定し、設計した通りに動作することを
確認します。設計にあたってはワーストケース(最悪値)設計を意識します。
また、NAND回路としての論理動作についても確認します。
実験課題
下記の項目について測定を行いDTL NAND回路の動作を確認します。
- 入出力静特性測定
- 論理動作の確認
- パルス発生器から矩形波を入力して出力を観測
実験回路
下図において、回路図表記とシンボル表記は論理素子としては等価な機能です。
- 回路図表記

- シンボル表記

回路の動作
基本的にはダイオードによるAND回路と
トランジスタ・インバータを接続したものです。
端子A、端子Bのどちらか、または両方が"L"レベルになるとX点のレベルは"L"になり、
更にトランジスタ・インバータにより論理が反転されるので、端子Yは"H"レベルになります。
端子A、端子Bの両方が"H"になるとX点のレベルはプルアップ抵抗:RB1により
"H"になります。更にトランジスタ・インバータにより論理が反転されるので、
端子Yは"L"レベルになります。以上の動作をまとめると下図の真理値表となります。
更に詳細な動作については、トランジスタ・パルス回路の
DTLによるNANDを
参照してください。
実験回路の設計
- 信号の電圧レベル
本来であれば、最初に論理素子間の電圧レベルの仕様を決めます。
しかし、全ての仕様を決めてから回路を設計するのはなかなか困難で
結果的には、今回は下図のようになりました。

- NANDの電気的仕様
(1)電源電圧
Vcc: 5V±5%(5V±0.25V)
(2)出力電流(IO)
IOH(max): 0.1mA
IOL(max): 8mA
(3)入力電流(II)
IIH(max): 0mA
IIL(max): 0.4mA
IIHは流れ込み、IILは流れ出しの電流値です。
IIH(max)は計算上、結果的にこの値になった値です。
(4)出力レベル(VO):
VOH(min): 3.0V
VOL(max): 0.4V
VOL(max)は事実上トランジスタ飽和時のコレクタ〜エミッタ間電圧で
決まってしまうので、データシートの値よりやや大きめにしてあります。
(5)閾値レベル(VT):
VT(max): 2.3V
VT(min): 0.5V
(6)トランジスタ直流電流増幅率(hFE):
hFE(min): 120
hFE(max): 240
トランジスタは2SC1815のYランクを使用します。
(7)トランジスタのコレクタ電流の最大値(IC(max)):10mA
IC(max)は出力電流IOH(max)より大きい必要があります。
(8)抵抗器の最大誤差(α):5%
昨今は安価なP型カーボン抵抗でも1%誤差が一般的ですが、
何でも使えるように5%誤差としました。
- D1〜D4の選定と閾値の計算
結論としてはD1〜D4の全てに汎用品の1S1588を使いましたが、
D1、D2に1S1588を使うか、BAT43を使うかは迷いました。
問題は閾値がいくらになるかです。そこで、閾値の違いを計算してみました。
閾値の上限(VT(max))と下限(VT(min))は下記の式で計算します。
VD(max)はダイオード:D3、D4(1S1588)の順方向電圧です。
VT(max) = VD(max)*2 + VBON - VD1(min)
VT(min) ≦ VBOFF - VD2(max)
+ VD(min) * 2
トランジスタが確実にONとなるベース電圧(VBON)は0.9[V]、
トランジスタが確実にOFFとなるベース電圧(VBOFF)は0.4[V]で計算します。
(1)D1、D2がBAT43の場合
VT(max) = 0.9[V]*2 + 0.9[V] - 0.26[V] = 2.44[V]
VT(min) ≦ 0.4[V] - 0.33[V] + 0.4[V]*2 = 0.87[V]
(2)D1、D2が1S1588の場合
VT(max) = 0.9[V]*2 + 0.9[V] - 0.4[V] = 2.3[V]
VT(min) ≦ 0.4[V] - 0.9[V] + 0.4[V]*2 = 0.3[V]
両者を比較すると、とくに1S1588ではVT(min)が0.3[V]と低いため
BAT43の方が良いように見えます。
しかし、VD2(max)が0.9[V]で同時にVD(min)が0.4[V]になるような状況は
考えずらく、その差はせいぜい0.2〜0.3[V]程度でしょう。
その場合、VT(min)は0.5〜0.9[V]になるので、D1、D2に1S1588を
使用しても誤動作する可能性はないと思われます。
このように、ワーストケース設計を徹底すると現実的な設計が難しくなることが
ときどき起こります。その場合は、合理的な理由を以て条件を緩和することが
必要になるでしょう。(もちろん設計に困っただけの理由で緩和するのは論外です。)(^^;
- Rcの選定
インバータ回路と同様に次の式で範囲が決まります。
VCC(max) / [{IC(max) - IOL(max)}*(1-α)]
≦ Rc ≦ (VCC(min) - VOH(min)) /
{IOH(max)*(1+α)}・・・・(1)
今回の回路は、インバータの実験のときと違い、入力電流のIIH(max)は
ほとんど0なので、
IOH(max)も0で計算しても動作します。そうすると、不等式の後半は不要なので
VCC(max) / [{IC(max) - IOL(max)}*(1-α)] ≦ Rc
となります。ただし、今回は仕様で、IOH(max)=0.1mA、VOH(min)=3.0Vと
決めたので、
やはり(1)式で計算することにします。仕様で与えられた値を代入すると
5.25[V] / [{10[mA] - 8[mA]}*(1-0.05)] ≦ Rc ≦ (4.75[V] - 3.0[V])/(0.1[mA] * 1.05)
∴ 2,764[Ω] ≦ Rc ≦ 16,666[Ω]
となります。E6系列から選定して
RC = 10[kΩ]としました。
- RB1の選定
以下の式で範囲が決まります。
RB1 ≧ {VCC(max) - VD2(min)} /
{(1-α) * IIL(max)}
値を代入すると
RB1 ≧ (5.25[V] - 0.4[V]) / (0.95 * 0.4[mA]) = 12,763[Ω]
となりますが、この抵抗を大きくしてしまうと、後述のRB2の値も大きくなって
しまいます。RB2が大きくなると蓄積電荷によりトランジスタがOFFになる
時間遅れが大きくなります。ので、なのでなるべく12,763[Ω]に近い値を選びます。
E6系列から選定して10[kΩ]と
3.3[kΩ]の直列接続とし、
RB1 = 13.3[kΩ]としました。
- RB2の選定
次の式で範囲が決まります。
IC(max) / hFE(min) ≦
(VCC(min) - VD(max)*2 - VBON) /
{(1+α) * RB1} - VBON / {(1-α) * RB2}
仕様で与えられた値を代入すると
10[mA] / 120 ≦ (4.75[V] - 0.9[V]*2 - 0.9[V]) / (1.05 * 13.3[kΩ]) -
0.9[V] / (0.95 * RB2)
計算すると
0.083[mA] ≦ 0.147[mA] - 0.95 / RB2
∴ RB2 ≧ 14,844[Ω]
E6系列から選定して
RB2 = 15[kΩ]としたいところですが
手持ち部品の関係で
RB2 = 22[kΩ]としました。
念のためこれらの値を不等式に代入してみると、不等式が
成り立っていることが確認出来ます。
- 入力電流の計算
(1)HレベルのときはダイオードがOFFになるので電流はほとんど流れません。
(IIH(max)≒0)
(2)Lレベルのときの最大電流(IIL(max))ですが、
次の式となります。
IIL(max) ≒ {VCC(max) - VD2(min)} /
{(1-α) * RB1}
値を代入して
IIL(max) = (5.25[V] - 0.4[V]) / (0.95 * 13.3[kΩ])
∴ IIL(max) ≒ 0.384[mA]
この結果、ファンアウト(1個の論理素子が何個の論理素子をドライブできるか)は
ファンアウト = IOL(max) / IIL(max) = 8[mA] / 0.384[mA] ≒
20.8[個]
なので、ファンアウトは20個ということになります。
- 入出力静特性測定
(1)下図の回路を組み立てます。
(本回路においてはA端子をopenにするとVA="H"と等価になります。)

(2)ディジタル・テスターでVBを測定しながらVR 2kΩを調整し
電圧VBを設定します。
(3)ディジタル・テスターでVYを測定します。
(4) (2)〜(3)を繰り返し、VBを0[V]からVccまで変化させ、
VBとVYの関係をグラフにします。
- 論理動作の確認
A端子およびB端子をopen(="H")またはGNDに接続(="L")し、Y端子の電圧を
測定します。この際、Y端子が0.4[V]以下なら"L"、3.0V[V]以上なら"H"と判定し
真理値表のYの値を記録します。
- 波形測定
(1)下図の回路を組み立てます。

(2)矩形波発振器から0-5Vのレベルで、500Hz程度の矩形波を端子Bに加えます。
(3)オシロスコープで端子Bと端子Yの波形を観測します。
(4)端子Aをopen(="H")にしたり、グランドに接続(="L")したりしながら、
端子Yの波形の変化を観測します。
実験機材
- 電子ブロック
使用したブロックは、実験方法の
電子ブロックの配置を参照。
- 簡易安定化電源 (5[V]端子)
- 可変抵抗器(2kΩB)
- ディジタル・テスター
- オシロスコープ
- 矩形波発振器
実験結果
- 入出力静特性の測定
閾値は0.8〜1.0[V]。傾斜はトランジスタ・インバータより急峻。

- 論理動作の確認
Yの欄(赤色)が測定結果。
| A | B | Y |
| L | L |
H |
| L | H |
H |
| H | L |
H |
| H | H |
L |
- 波形測定
(1)端子A="H"

上:VB 5V/div、0.5ms/div
下:VY 5V/div、0.5ms/div
(1)端子A="L"

上:VB 5V/div、0.5ms/div
下:VY 5V/div、0.5ms/div
考察
- 入出力静特性の測定
閾値レベルは0.8[V]〜1.0[V]程度となり、設計値となるVT(max)=2.3[V]、
VT(min)=0.5{V]の
範囲に収まりました。閾値付近のグラフの傾きが、
インバータの実験のときより
急になっていますが、今回の実験の方がコレクタ抵抗Rcが大きいためと考えられます。
出力端子Yの電圧レベルは"H"のとき4.7[V](=Vcc)、"L"のとき0.02[V]となり、こちらも
仕様となるVOH(min)=3.0{V]、VOL(max)=0.4[V]を
満足しました。よって、
ダイオードANDのように"L"レベルの電圧が上昇する現象がないことを確認しました。
- 論理動作の確認
NAND回路の論理動作が実際の回路で実現出来たことを確認しました。
- 波形測定
(1)端子A="H"のとき、端子Bの信号を反転した波形が端子Yに現れました。
(2)端子A="L"のとき、端子Yは"H"固定となりました。
これによりA端子のレベルを"H"または"L"に変化させることにより、B端子の信号を
端子Yに通過させたり、止めたりする機能が実現出来ることが判りました。
今後の課題
- トランジスタNAND回路の実験への応用
NAND回路を組み合わせた論理機能(記憶素子、加算器など)の実現
参考文献
- パルス回路の設計(昭和56年(1981) 第20版(改訂10版)) P-132〜137 インバータ、
猪飼國夫著、 CQ出版社
- 解析ディジタル回路(昭和56年(1981) 第11版)、岡村迪夫著、CQ出版社
関連項目
- トランジスタ・パルス回路の解析−
トランジスタのスイッチ動作の基本
- トランジスタ・パルス回路の解析−
トランジスタ・インバータ
- トランジスタ・パルス回路の実験−
トランジスタ・スイッチとLEDの点灯/消灯制御実験
- トランジスタ・パルス回路の実験−
スピードアップ・コンデンサの実験
- 簡易安定化電源 (5[V]端子)
- 可変抵抗器(2kΩB)
- 矩形波発振器
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