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電流増幅付き定電圧電源回路の実験
暫定版作成。(2015/05/01)
実験回路(3)を追加して、全面見直し。本ページ完成。(2024/12/22)
実験の目的
電圧の安定化についてはツェナー・ダイオードの特性をそのまま利用しますが、
電流増幅のためのトランジスタを追加することにより、ツェナー・ダイオード
単体より安定化できる負荷電流の値を大きくできる安定化電源回路について
動作を確認し、基本的な特性を測定します。
実験課題
下記の項目について測定を行い、定量的な設計が可能か検討します。
- 負荷変動に対する出力電圧の変化率
- 入力電圧の変動に対する出力電圧の変化率
- 電流制限回路の動作の確認
実験回路
- 実験回路(1)

- 実験回路(2)

- 実験回路(3)

回路の動作
ツェナーダイオードのみの定電圧電源では、負荷電流の変動分が全てツェナー電流の
変化となるため、定電圧化出来る負荷電流の大きさに制限があります。
そこで、トランジスタによる電流増幅回路を付加することにより安定化出来る
負荷電流を大きくします。
R1とZDは
ツェナー・ダイオードによる安定化電源回路そのものです。
本安定化電源回路は、このツェナー・ダイオードの回路に
トランジスタのエミッタ・フォロワー
を組み合わせた回路構成になります。
ツェナー・ダイオードによりVzは一定電圧です。出力電圧VoはVzよりトランジスタTr1の
ベース〜エミッタ間電圧VBE(≒0.7[V])の分だけ低い電圧となるため一定電圧になります。
一方電流は出力電流をIoとすればトランジスタのベースに流れ込む電流Ibは
Ib = IE / (hFE + 1) ≒ Io / hFE
となります。ここに、hFEはトランジスタTr1の直流電流増幅率です。
Ibはツェナー・ダイオードの安定化回路からみると負荷電流になりますが、
Ioの1/hFEになります。言い換えると、ツェナー・ダイオードによる安定化電源回路の
負荷電流はトランジスタによりhFE倍に増幅されたことになります。

・電流制限の動作
この回路で出力を短絡させてしまったなど過負荷になった場合、Tr1に大電流が流れて
トランジスタを破損してしまいます。
R2はこの際、トランジスタを保護するのが目的で、
参考文献1に記載された方式です。
R2の両端の電圧は、負荷電流Ioの変動により変化しますが、その分
Tr1のVCEが反対方向に変化するため、Voは一定に保たれます。
Voを短絡すると、R2の電圧降下が大きくなりTr1のコレクタ電圧が
0[V]に近づくため、電流が制限されTr1を保護します。

実験回路の設計
- 設計条件
(1)出力電圧:
実験回路@: 4.4[V]
実験回路A: 5.1[V]
実験回路B: 5.1[V] (Aと同じ)
(2)負荷電流:0〜20[mA]
(3)入力電圧:7.5〜12[V] (Bでは12[V]固定)
- トランジスタの選定
小信号の汎用トランジスタが使用できるよう、負荷電流は20mAとしましたので、
2SC1815(Y)を使用します。
コレクタ損失の最大値は、入力電圧が12[V]、出力電流が20[mA]、出力電圧が4.4[V]
のときで、PC(max)= (12 - 4.4) * 0.02 = 152[mW]です。
項目 | 記号 | 単位 | 部品仕様(25℃) | 設計値(max) | 判定 | 備考 |
コレクタ電流 | IC | mA | 150 | 20 | OK | |
コレクタ損失 | PC | mW | 400 | 152 | OK | |
コレクタ・エミッタ間電圧 | VCEO | V | 50 | 7.6 | OK | |
直流電流増幅率 | hFE | | 120〜240 | − | − | Yランク |
- 抵抗:R1の選定
ツェナーダイオードにはVz=5.1[V]となる品種を想定します。
出力電流Ioの最大値は20[mA]です。トランジスタに2SC1518のYランクを使用すると、
hFEの最小値は120なので、Ibの最大値は
Ib(max) = Io(max)/hFE(min) = 0.02/120 ≒ 167[μA]
となります。
(ただし過電流となった場合はこの値を超える。考察を参照。)
ツェナーダイオードに流れる電流はR1で決まりますが、ツェナー電圧を一定に
保つためにはツェナーダイオードに一定以上の電流を流しておく必要があります。
ツェナーダイオードの電流が最小になる条件は下記の条件が同時に成り立ったときです。
・負荷の電流(Io)が最大になったとき、すなわちIbが最大になったとき、
・入力電圧(Vi)が最小になったとき、
Izに少なくとも10[mA]流すと仮定すると、抵抗R1に流す最小電流I1(min)は
I1(min) = Iz(min) + Ib(max) = 10[mA] + 0.167[mA] ≒ 10.2[mA]
となります。入力電圧(Vi)が最小の場合でこの電流を流すためには
R1 = {Vi(min) - Vz} / I1(min) = (7.5 - 5.1) / 0.0102
∴R1 ≒ 235[Ω]
E6系列から
選定するとしてR1 = 220[Ω]とします。
R1に流れる最大電流は、入力電圧が12[V]のときなので、
IR(max) = (12 - 5.1)/220 ≒ 31.4[mA]です。
抵抗R1の最大消費電力PR(max)は
PR(max) = VR(max) / IR(max) =
(Vi(max) - Vz) / IR(max)= (12 - 5.1) * 0.0314 ≒ 0.217[W]
なので、ややマージンが少ないですが、1/4[W]タイプの抵抗器を使用します。
- ツェナー・ダイオードの選定
出力電圧はツェナー電圧で決まってしまうため、入手出来るツェナーダイオード
によって出力電圧の仕様を決めることになります。
ツェナー・ダイオードによる電源安定化の実験
でも使用した1N5231Bを使用します。
ツェナー・ダイオードに流れる最大電流は、入力電圧が最大の12[V]のときで
かつ、出力電流Io=0、すなわちIb=0のときです。従って
Iz(max) = {Vi(max) - Vz}/R1 = (12 - 5.1)/220 ≒ 31.4[mA]
最大消費電力はPD = 5.1 * 0.0314 ≒ 160[mW]
項目 | 記号 | 単位 | 部品仕様(25℃) | 計算値(max) | 判定 | 備考 |
許容電力 | PD | mW | 500 | 160 | OK | |
- ダイオード:D1の選定
ディジタル回路では5[V]の電源がよく使われます。
本実験回路@では出力電圧が約4.4Vとなりますが、この出力電圧を5[V]に近づけるため
ツェナー・ダイオード:1N5231Bと直列にシリコンダイオード:1S1588を接続してみました。(実験回路A)
最大電流はIF = (12 - 5.1 - 0.7)/220 = 28.2[mA]です。
項目 | 記号 | 単位 | 部品仕様(25℃) | 計算値(max) | 判定 | 備考 |
許容電流 | IF | mA | 120 | 28.2 | OK | |
- 出力電圧(Vo)の変動幅
(1)負荷電流(Io)の変化に対する変動検討
本回路構成においてはツェナー電流の変化ΔIzは、出力電流の変化ΔIoに対して
トランジスタのhFE分の1に小さくなります。
一方、トランジスタのhFEは最も小さいとき、すなわちhFE(min)
のときツェナー電流の変化ΔIzが最大になります。
従って、負荷電流の変化幅ΔIoは20[mA]ですので、ツェナー電流の変化幅ΔIzは
ΔIz = ΔIo/hFE(min) = 0.02/120 = 167[μA]
となります。
ツェナーダイオードに1N5231Bを使用した場合、データシートよりIz=20[mA]における
等価直列抵抗Zzは17[Ω]です。今回の実験回路においてツェナーダイオードに流れる電流は
最小で10[mA]であることから
ツェナー・ダイオードによる電源安定化の実験で
検討したのと同様、等価内部抵抗(Zz)は直流電流に反比例すると仮定すると、
最大で34[Ω]となります。この値を使ってツェナー電圧の変化幅ΔVzを計算すると
ΔVz = Zz(max) * ΔIz = 34 * 0.000167 ≒ 5.7[mV](max)
このようにトランジスタによる電流増幅を行うことにより、ツェナー電圧の変動幅は
1/hFEに小さくなることが判ります。
(2)入力電圧(Vi)の変化に対する変動検討
入力電圧の変化ΔViに対しては、抵抗R1を流れる電流の変化ΔI1が、
全てツェナー電流の変化ΔIzになります。よって、入力電圧の変化に対する
出力電圧の変動幅ΔIoは
ツェナー・ダイオードによる安定化電源回路と
同じになると考えられます。よって、
ΔI1 = {Vi(max) - Vi(min)}/R1 = (12 - 7.5)/220 = 20.5[mA]
= ΔIz
ΔVz = Zz(max) * ΔIz = 34 * 0.0205 = 697[mV](max)
(3)出力電圧(Vo)の変動幅検討
(1)と(2)によりVzの変動幅はある程度計算出来ましたが、Voの変動幅は
VzとVBEの変動幅の合計となります。しかし、
Ioの変化→Ibの変化→VBEの変化
となり、VBEの変化はデバイスのバラツキや温度の影響もあるため
[mV]単位で計算することは現実には困難であると思われます。
- 抵抗:R2の選定
電流制限の実験はVi=12[V]で実施します。
文献1では、「最大負荷のときに、Tr1のVCEが2[V]ほど残る
ようにR2を決める」とあります。
本実験の最大負荷は20[mA]としたので、これらの条件からR2を計算すると
R2 = {Vi(max) - VCE - Vo} / Io(max) =
(12 - 2 - 5.1) / 0.02 = 245[Ω]
となり、E6系列なら
220[Ω]か330[Ω]、E12系列なら270[Ω]になります。
330[Ω]とした場合、仮にVCE = Vo = 0[V]となると
消費電力PR2は
PR2 = Vi2 / R2 = 122 / 330 ≒ 0.44[W]
となるので0.5[W]の抵抗器が必要です。
この実験のために抵抗値を購入するのもなんなので、結果的には少し大きい
R2 = 500[Ω]
とすることにしました。
仮にVCE = Vo = 0[V]になった場合、R2の消費電力PR2は
PR2 = Vi2 / R2 = 122 / 500 ≒ 0.29[W]
なので、0.5[W]の抵抗器が必要ですが、1[kΩ]1/4[W]の抵抗を2本並列にして500[Ω]と
したなら、抵抗1本あたりの消費電力は半分になり0.15[W]になるので
1/4[W]タイプが使用できます。
また、このときTr1に流れる電流Io(max)は
Io(max) = Vi / R2 = 12 / 500 ≒ 24.0[mA]
なので、2SC1815の最大定格である150[mA]以内に収まり、
電流制限抵抗が正常に機能しそうです。
(実際は、ベース電流の最大値も考慮する必要があった。考察参照。)
実験方法
- 電子ブロックの配置
(1)実験回路(1)

(2)実験回路(2

(2)実験回路(3)

- 最初、電圧Viを12[V]に設定します。
負荷抵抗RLとして下記の値を接続し、電圧Vi、Vo、Vzを測定します。
Viも測定するのは、出力電流が大きくなってくると乾電池の内部抵抗により
電圧降下が発生して、Viが低下してくるからです。
(1)RL = 無限大 (IL = 0[mA])
(2)RL = 2.2[kΩ] (IL = 2.3[mA])
(3)RL = 1[kΩ] (IL = 5.1[mA])
(4)RL = 680[Ω] (IL = 7.5[mA])
(5)RL = 470[Ω] (IL = 10.9[mA])
(6)RL = 220[Ω] (IL = 23.2[mA])
(6)RL = 150[Ω] (IL = 34.0[mA])
(6)RL = 100[Ω] (IL = 51.0[mA])
消費電流が最大となる100[Ω]の場合、負荷抵抗の消費電力Pは
P = Vz * IL = 5.1 * 0.05 = 255[mW]
なので、負荷抵抗器は1/4Wでは許容電力不足ですが、
短時間の測定なので手持ちの1/4Wタイプを使用することにしました。
- 実験回路(1),(2)
電池の数を調整して、電圧Viを12[V]、10.5[V]、9[V]、7.5[V]と変化させながら
上記と同様負荷抵抗RLを変えながらVi、Vo、Vzを測定します。
- 実験回路(3)
電池の電圧Viを12[V]として、負荷抵抗RLを変えながら
Vi、Vo、Vz、Vc(トランジスタのコレクタ電圧)を測定します。
実験機材
- 電子ブロック
- 固定抵抗器(RL):
100[Ω]、150[Ω]、220[Ω]、470[Ω]、680[Ω]、1[kΩ]、2.2[kΩ]
- ディジタル・テスター
- 乾電池:1.5V×8本
- 電池ホルダー
実験結果
- 測定データ(実験回路@)


計算式: Io = Vo / RL、ΔVo = Vo(Io=0) - Vo、
I1 = (Vi - Vz) / R1
Ib = Io / hFE = Io / 167、Iz = I1 - Ib
- データのグラフ(Io-Vo特性)(実験回路@)

- 5V付近の拡大グラフ(実験回路@)

- 測定データ(実験回路A)


計算式: Io = Vo / RL、ΔVo = Vo(Io=0) - Vo、
I1 = (Vi - Vz) / R1
Ib = Io / hFE = Io / 167、Iz = I1 - Ib
- データのグラフ(Io-Vo特性)(実験回路A)

- 5V付近の拡大グラフ(実験回路A)

- 測定データ(実験回路B)

R2 = 200[Ω]時のIbの計算式: Ib = Io - (Vi - Vc) / R1
測定精度の関係でRL=2200と1000[Ω]ではマイナスになっていますが無視しました。
- データのグラフ(Io-Vo特性)(実験回路B)

- 5V付近の拡大グラフ(実験回路B)

考察
- 出力電流の変化に対する出力電圧の変動
出力電圧Voは負荷電流が0に近い付近で大きく変化しています。
これはトランジスタのベース〜エミッタ間電圧VBEの変化によるものです。
出力電流が最大負荷の20[mA]を超えても、ツェナー電圧Vzはほとんど変化していません。
ただし、実験回路(2)ではダイオードD1があるせいか、実験回路(1)より変化幅が
少し大きいです。
- 入力電圧の変化に対する出力電圧の変動
ツェナー電流が変化するため、基準電圧Vzが変化することにより出力電圧Voも変化します。
Viを12[V]から7.5[V]まで変化させたときの変化は下表となりました。
ΔVz 計算値(最大) | ΔVo 実測値[V] | 実測値/計算値(%)
| 条件 |
697[mV] | 180[mV] | 25.8%
| 負荷抵抗:220[Ω](Io≒20[mA]) |
- 出力電圧の変動幅(結論)
実験回路の設計でも述べたようにツェナー・ダイオードの電圧変動幅(ΔVz)はある程度
計算出来るものの、トランジスタのベース〜エミッタ間電圧VBEの変動幅の
計算は等価直列抵抗が直流電流により大きく変化し、温度の影響もあることから、
[mV]レベルでの正確な計算は困難と思われます。
よって出力電圧は0.3〜0.5[V]位の変化を覚悟した用途になると考えます。例えば、
厳密な電圧を必要としない交流のアナログ増幅回路では、実用上問題ないでしょう。
一方、実験回路Aは5[V]電源ですが、TTL用など±5%を維持するには精度と安定度に不安が残ります。
なおいずれの回路でも、無負荷状態付近の出力電流が小さいところでは電圧変化率が大きいので、
ブリーダー抵抗などである程度(1[mA]?)電流を流しておくのも一案でしょう。
- 電流制限
R2を500[Ω]としたので、Ioは24[mA]で制限されるものと期待したのですが
実際には、RL=100[Ω]にしたときでもVoは0とならず、しかもIoが40.0[mA]も流れています。
これは、Ioの増加によりトランジスタが飽和すると、Voの低下によりVzが低下、
さらにツェナーダイオードに電流が流れなくなり、R1を経由して、
トランジスタのベースからエミッタに大きな電流が流れ始めるからでした。
計算ではRL=100[Ω]のときIb=26.2[mA]の電流が流れます。
データシートによるとIbの最大定格は50[mA]なので、これ以上RLを小さくするのは
危険と考え、Voの短絡までは実験しませんでした。今回の実験で
「Ioの制限電流はトランジスタのコレクター電流とベース電流の最大値で決まる」
という重要な知見が得られました。
また、出力短絡時、ベース電流が最大定格を超えないようにR1を選定する必要が
あることも判りました。
これらを図にまとめると下記となります。

結局、出力短絡時(Vo=0)の最大電流Io(max)は次の式となります。
Io(max) = Ic(max) + Ib(max) = Vi / R2 + (Vi - VBE) / R1
今後の課題
- なし
参考文献
- OPアンプ回路の設計(昭和55年(1980)第15冊)P-133,135、岡村廸夫著、CQ出版社
ここで引用した保護回路に関する記述は、本書の改訂版である
「定本OPアンプ回路の設計」では削除されています。
定本では、3端子レギュレータに置き換えられているので。(^^;
関連項目
- 電子回路-ツェナー・ダイオードによる安定化電源回路
- 電子回路-電流増幅付き定電圧電源回路
- 電源回路の実験−ツェナー・ダイオードによる電源安定化の実験
- 電子回路−エミッタフォロワー
- 自作電子ブロック
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