JH8CHUのホームページ>
トランジスタ・パルス回路の解析
>DTLによるNAND
DTLによるNAND
本ページ作成。(2026/08/16)
回路の機能
AND回路の出力にインバータを接続し、ひとつの論理素子としたものをNAND(ナンド)といいます。
ダイオードのみによるAND回路は
増幅作用がないため、欠点があります。
これを改善したものがNAND回路です。インバータには電圧レベルを元に戻す作用があるからです。
このような回路はダイオードとトランジスタにより構成されることから、一般的に
DTL(Diode Transistor Logic)と言います。
NAND回路は、複数組合わせることにより様々な論理素子を実現できます。
これに対し、OR回路の出力にインバータを接続し、ひとつの論理素子としたものをNOR(ノア)と
いいます。NORもダイオードORの欠点を改善すると同時にNORを複数組合わせて様々な論理素子を
実現できます。ここでは、バイポーラ・トランジスタを使ったNANDについて解析を行います。
回路図
(1)DTLよるNAND回路(の例)

(2)シンボル
論理回路では、論理素子(AND、OR、NOTなど)の内部をトランジスタや
ダイオードで表現しないで、下図のようなシンボルで表現します。

回路の動作
- NANDの論理動作
ANDの出力をインバータで反転するので真理値表は下記となります。
| A | B | AND |
Y(NAND) |
| L | L | L | H |
| L | H | L | H |
| H | L | L | H |
| H | H | H | L |
- NANDの回路構成
下図の黄色の部分がダイオードによるAND回路です。
動作はトランジスタ・パルス回路に記載した
ダイオードANDと同じです。
下図の緑色の部分はインバータ回路です。
動作はトランジスタ・パルス回路に記載した
トランジスタ・インバータと同じですが、
レベルシフト・ダイオードが1個追加され、2個(D3、D4)となっています。
また、トランジスタ・インバータではレベルシフト・ダイオードと直列に接続されていた
抵抗はAND回路のプルアップ抵抗(RB1)と兼用になっています。

- 波形の再生
下図のような単純なダイオードAND
では、端子Aまたは端子Bの入力電圧レベルが
たとえ0[V]だとしても、ANDの出力となる電圧(Vx)はどうしてもダイオード1個分の
順方向電圧(VD)の分上昇してしまいます。

下記のグラフはトランジスタ・インバータの
入出力特性の一例です。
インバータが"H"と"L"を判定する境目である閾値は、境目付近でやや曲線となっていて、かつ、
この曲線もトランジスタのバラツキや、温度や電源電圧の変化によってわずかに左右に移動します。
なので閾値はある幅を持っていると考えます。そして、閾値の最小値(VT(min))より
低い電圧であれば、インバータは必ず出力が"H"になり、閾値の最大値(VT(max))より
高い電圧であれば、インバータは必ず出力が"L"になります。
NAND回路ではダイオードAND出力(Vx)の"L"レベルがVD分高くなっても
VT(min)より
低い電圧であれば"L"と判定し、出力(VY)を確実に"H"にしてくれます。

- 閾値の調整とレベルシフト・ダイオード
実際のインバータの閾値は、例えば"L"レベルなら、信号(ここではVx)の"L"レベルが
閾値の最小値(VT(min))より低ければよいだけではなく、少し幅があるように
設計します。この幅(=VT(min) - VXL)がノイズマージンとなります。
インバータの閾値はトランジスタ・インバータ
で記載したように
トランジスタのベースにダイオードを挿入することにより調整することが出来ます。
今回の回路ではレベルシフト・ダイオードを2個にして閾値を調整しています。
- Rcの選定範囲
α: 抵抗の最大誤差
IC(max): トランジスタのコレクタに流す最大電流。
として、
トランジスタ・インバータと同様に下記の式になります。
VCC(max) / [{IC(max) - IOL(max)}*(1-α)]
≦ Rc ≦ (VCC(min) - VOH(min)) /
{IOH(max)*(1+α)}
しかし、本回路のNANDのみで回路を構成するのであれば、IIH(max)=0となるので、
IOH(max)=0として計算すると、上の不等式は(Rc≦∞となるので)
VCC(max) /
[{IC(max) - IOL(max)}*(1-α)] ≦ Rc
と簡単化出来、選定範囲が広がります。

- RB1とRB2の選定範囲と閾値の計算
(1)トランジスON動作時

回路構成からベース電流に関して次のふたつの式が成り立つ必要があります。
(ここは
トランジスタ・インバータと同じです。)
IB(min) ≧ IC(max) / hFE(min) ・・・・・(1)
IB(min) = I1(min) − I2(max) ・・・・・(2)
ここで、VBONはトランジスタが確実にONになるベース電圧、αは抵抗器の最大誤差、
VDをD3・D4の順方向電圧とすれば、
I1(min)とI2(max)は
I1(min) = (VCC(min) - VX(max)) /
{(1+α) * RB1}
このとき、VX(max) = VD(max) * 2 + VBON なので
I1(min) = (VCC(min) - VD(max) * 2 - VBON) /
{(1+α) * RB1} ・・・・・(3)
I2(max) = VBON / {(1-α) * RB2} ・・・・・(4)
となるので、(1)〜(4)式より
IC(max) / hFE(min) ≦
(VCC(min) - VD(max)*2 - VBON) /
{(1+α) * RB1} - VBON / {(1-α) * RB2}
・・・(5)
を得ます。
なお、このときD1・D2はともにOFFになる必要があります
(ONになるとD1・D2経由でRB1に電流が流れ
VX(max)が低下してしまうため)。
よって、
VA>VX(max) - VD1(min)
VB>VX(max) - VD2(min)
となる必要があるので、このときのVA・VBがHレベルの閾値となります。
すなわち
VT(max) = VX(max) - VD1(min)
VT(max) = VX(max) - VD2(min)
∴
VT(max) = VD(max)*2 + VBON - VD1(min)
VT(max) = VD(max)*2 + VBON - VD2(min)
となり、この式がVT(max)を決めます。
また、D1とD2はともにOFFなので、IIH(max)=0です。
(2)トランジスOFF動作時
下図では仮にD1=0FF、D2=0Nとしています。

トランジスタが確実にOFFとなるベース電圧をVBOFFとします。
そして、トランジスタがOFFのときベース電流は流れません。
そのようにするためにはベース電圧が最大でもVBOFF以下になればよいので、
VBOFF ≧ VX(max) - VD(min) * 2
このとき、VX(max) = VT(min) + VD2(max) なので
VBOFF ≧ VT(min) + VD2(max)
- VD(min) * 2
この式からVT(min)が決まります。
VT(min) = VBOFF - VD2(max) +
VD(min) * 2 ・・・(6)
(D1がON、D2がOFFのときは、
VT(min) = VBOFF - VD1(max) +
VD(min) * 2)
ここで、B端子の電圧を0[V]とし、B端子より流れ出す電流(IIL(max))を考えると
IIL(max) = {VCC(max) - VD2(min)} / RB1(min) -
I1
∴ IIL(max) = {VCC(max) - VD2(min)} / RB1(min) -
VBOFF / RB2(max)
一般的に
IIL(max) ≫ I1
になると考えられるので
IIL(max) > {VCC(max) - VD2(min)} / RB1(min)
∴ IIL(max) > {VCC(max) - VD2(min)} /
{(1-α) * RB1}
∴
RB1 > {VCC(max) - VD2(min)} /
{(1-α) * IIL(max)} ・・・(7)
(7)式によって仕様となるIIL(max)からRB1の範囲が決まり、
RB1が決まると、(5)式からRB2の範囲が決まります。
NORの機能
NORのシンボルと真理値表のみを以下に記載します。
- NORのシンボル

- NORの真理値表
| A | B | OR |
Y(NOR) |
| L | L | L | H |
| L | H | H | L |
| H | L | H | L |
| H | H | H | L |
他の機能の論理素子の実現例
- NANDでインバータ(NOT)を作る
NANDのふたつの入力に同じ信号をいれます。

真理値表で確認すると。
| A | B | NAND |
| L |
L |
H |
| L | H | H |
| H | L | H |
| H |
H |
L |
次のような方法もあります。

真理値表で確認すると。
| A |
B |
NAND |
| L |
L |
H |
| L |
H |
H |
| H |
L |
H |
| H |
H |
L |
- NANDでANDを作る
ほとんど自明ですね。(^^;

- NANDでORを作る
ここで、負論理の話やド・モルガンの法則について書くと良いのですが
とりあえず真理値表で論理が同じになることを確認してください。
NOTは前述の方法で実現すればよいので、これも内部はNANDで実現出来ます。

| A | B |
notA | notB |
Y=(notA)NAND(notB) | AとBのOR |
| L |
L |
H |
H |
L |
L |
| L |
H |
H |
L |
H |
H |
| H |
L |
L |
H |
H |
H |
| H |
H |
L |
L |
H |
H |
- NANDでNORを作る
NORの出力にNOTを接続するとORになります。

今後の課題
- NAND回路について具体的に設計と動作確認を行う
トランジスタ・パルス回路の実験−
DTLによるNANDの実験に記載予定。
参考文献
- パルス回路の設計(昭和56年(1981) 第20版(改訂10版)) P-132〜137 インバータ、
猪飼國夫著、 CQ出版社
- 解析ディジタル回路(昭和56年(1981) 第11版) 第1章 ディジタルICを動かす、岡村廸夫著、 CQ出版社
関連項目
- トランジスタ・パルス回路の解析−
トランジスタのスイッチ動作の基本
- トランジスタ・パルス回路の解析−
トランジスタ・インバータ
- トランジスタ・パルス回路の解析−
ダイオードAND・ダイオードOR
- 電子回路−ダイオード−PN接合
- ダイオードのデバイス実験−
小信号ダイオードの静特性測定実験
JH8CHUのホームページ>
トランジスタ・パルス回路の解析>
DTLによるNAND
Copyright (C)2026 Masahiro.Matsuda(JH8CHU), all rights reserved.