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電子工作のための 熱設計の基礎


本ページ作成。(2026/10/30)

  1. 解析する半導体ケース(パッケージ)

  2. ここでは、小型のパワートランジスターや3端子レギュレータに採用されている
    TO-220、および大電力のパワートランジスタに採用されてるTO-3の熱設計
    について記載します。

    ・TO-220


    ・TO-3


    放熱器(ヒートシンク)を取り付けた状態を下記の略図で表します。
    ・TO-220


    ・TO-3


  3. 半導体部品の放熱モデル

  4. 熱の流れは電気回路に置換えて理解することが出来ます。
    電気回路と熱等価回路の各物理量は下記のように対応させます。
    熱等価回路 電気回路 
    記号物理量と単位記号物理量と単位
    P熱流量[W]I電流[A]
    T温度[℃またはK]V電圧[V]
    θ熱抵抗[℃/WまたはK/W]R電気抵抗[Ω]

    熱抵抗(θ)は熱の流れを妨げる物理量で、この値が大きいほど熱が流れにくく、
    一定の熱(P)が流れたとき両端の温度差(T)が大きくなります。
    そして、T = θ×P の関係(オームの法則)が成り立ちます。


    半導体チップから発生した熱は、
    金属タブ→絶縁シート→ヒートシンク→空気、のルートで流れると同時に、
    ケース(パッケージ)や端子から直接空気中に流れて行きます。
    これを熱等価回路で表現すると下図のようになります。

    ・TO-220


    ・TO-3


    熱等価回路における熱抵抗は次のように分解されます。
    θjc:半導体チップ内で熱を発生するジャンクションと半導体ケース(パッケージ)
     間の熱抵抗。
    θch:半導体ケース(パッケージ)とヒートシンク間の熱抵抗。
    θha:ヒートシンクと空気間の熱抵抗。

    TO-220の等価回路ではジャンクションから直接空気中に流れる経路の熱抵抗をθja、
    TO-3の等価回路ではケースから直接空気中に流れる経路の熱抵抗をθcaとして
    表しましたが、このモデルの違いは必ずしも厳密でないと思われます。
    ただ、半導体の発熱量がある程度大きくなり、ヒートシンクが取り付けられていると
    発熱の大部分はヒートシンク経由となることから、一般的に
    θja≫(θjc + θch + θha)
    θca≫(θch + θha)

    の関係が成り立ちます。このため、θjaとθcaは省略可能なので、
    結局、いずれの等価回路も下図のように簡単化出来ます。


    この図ではさらにTaを追加しました。Taは周囲温度です。注意が必要なのは周囲温度
    とは半導体ケースの周りの温度であり室内の温度ではないことです。通常半導体が
    搭載されたプリント基板はケース(筐体)に収納されています。ケース(筐体)内の温度は
    プリント基板などの発熱により室温より温度が上がります。つまり下の図で言えば、
    Ta>To

    の関係になり、半導体の周囲温度とはTaのことを指します。


  5. ジャンクション〜半導体ケース間の熱抵抗:θjc

    1. 昔は半導体のデータシートにθjcの記載のないことが珍しくなくメーカーに
      問い合わせが必要でしたが(泣)、近年のデータシートではθjcを記載している
      ことが多いようです。
      θjcが記載されていなくても、下図のような温度特性のグラフが記載
      されていれば計算することが出来ます。


      計算式は
      θjc = (Tj - Ta) / PD

      となります。

  6. 半導体ケース〜ヒートシンク間の熱抵抗:θch

    1. θchは更に半導体ケースと絶縁板間の接触熱抵抗、絶縁板の熱抵抗、絶縁板と
      ヒートシンク間の接触熱抵抗に分けられます。
      ケース・絶縁板・ヒートシンクの表面には下図のように
      こまかな凹凸があり、凹凸の間には熱抵抗の大きな空気が入るため、
      直接接触させただけでは熱の伝達が悪くなります。


      そこで、ケース〜絶縁板間、絶縁板〜ヒートシンク間にコンパウンド(よく
      使われるのはシリコン・グリス)を塗ることにより、凹凸を埋め熱抵抗を
      下げることが出来ます。


      放熱タブや半導体のケースは通常、内部の電極のどれかと電気的に
      つながっています。
      絶縁板は半導体の放熱タブと金属製のヒートシンクを電気的に絶縁する
      ためのもので、雲母板(マイカ)や絶縁シートなどがあります。
      放熱タブとヒートシンク間を絶縁する必要がないなら、なくてもよいです。

      θchの値を正確に見積もることは難しいと思われますが(絶縁材の厚さ、面積、
      半導体ケースとヒートシンク間の締め付けトルクなどにより変化する)、
      θjcやθhaに比べると値が小さいので、多少アバウトに(?)見積もっても
      良いかもしれません。(^^?
      ちなみに参考文献には下記の値が掲載されています。

      ・θchの参考値(1)
      ケース外形 TO-3 TO-220
      コンパウンド使用 あり なし あり なし
      絶縁物なし 0.1 0.2 0.2 0.4
      マイカ(50μ) 0.4 0.8 0.5 1.0
      参考文献1より抜粋・引用。 一部改変。

      ・θchの参考値(2)
      ケース外形 TO-3
      コンパウンド使用 あり なし
      絶縁物なし 0.1 0.2
      マイカ(25〜75μ) 0.4〜0.3 0.8〜0.6
      参考文献4より抜粋・引用。

  7. ヒートシンク〜周囲空気間の熱抵抗:θha

    1. ヒートシンクの熱抵抗は、ヒートシンクの形状、大きさ、取り付け方向、自然空冷か
      強制空冷かなど、条件により変わります。

      ヒートシンクのデータシートには熱抵抗の値(θha[℃/W])と放熱特性グラフが
      記載されています。消費電力が増えると空気の対流による放熱が増えるため
      熱抵抗は低下していきます。データシートに記載の熱抵抗の値は温度上昇(ΔTh)が
      50℃のときの消費電力(P)からθha = ΔTh/P で求めた代表値です。


      ヒートシンクの体積が大きいほど熱抵抗は低下していきますが、熱源から離れるほど
      放熱の効果が低下していくことから、体積が2倍になっても熱抵抗は半分にはなりません。


      自然空冷の場合、ヒートシンクの取り付け方向は(A)の垂直取り付けが基本です。
      (放熱特性グラフは(A)の条件が前提と思われます)
      (D)は対流の空気が熱源の半導体側に流れていくので避けるべきです。
      ただし、強制空冷の場合は空気の流れる方向に取り付けます。


  8. 熱設計の考え方

  9. 以上の知識を準備とし、下図の熱等価回路(再掲)から熱設計の考え方を示します。


    半導体のデータシートではジャンクション温度の最大値(Tj)が規定されています。
    一方、半導体を使用した装置内の(周囲)温度(Ta)を装置仕様として規定します。
    そうすると、ジャンクション温度の上昇許容値(ΔT)がTj - Taで計算出来ます。
    次に半導体の発熱量(P)を計算するとオームの法則から熱抵抗の許容値(θmax)が
    θmax = ΔT / P で算出出来ます。
    θjcは半導体ケース固有の値なのでθjhとθhaを熱抵抗全体の
    許容値内に収まるよう設計することになります。
    以上の内容をひとつの式に纏めると
    θch + θha < (Tj - Ta) / Pmax - θjc

    となります。

  10. 熱設計の手順例(自然空冷)

  11. 熱設計の手順例を、以下記載します。

    1. 半導体チップの発熱量(Pmax)計算
    2. 最初に半導体チップでの発熱量(Pmax)を計算します。
      トランジスタならば、コレクタ〜エミッタ間の最大電圧(VCE(max))と
      コレクタの最大電流(IC(max)≒IE(max))の積となるため
      Pmax = VCE(max) * IC(max)

      3端子レギュレータならば、入力電圧(Vi(max))と出力電圧(Vo)の最大差と
      流れる電流の最大値(Io(max))をかけて
      Pmax = (Vi(max) - Vo) * Io(max)

      で算出します。

    3. 周囲温度(Ta)を決める
    4. 工業製品なら、製品の仕様として使用温度(To)を決め、筐体内部の温度上昇(ΔT)が
      ΔT ≦ (Ta - To) となるように筐体を設計します。そのために筐体の熱設計
      (通風口を開けたり、発熱機器・部品の配置検討、強制空冷のファンの設置など)が
      必要となります。仕様を満足しているかは、最終的には実測します。
      電子工作の場合、そこまで大げさになることは少ないと思いますが、室温(To)
      としては人間が常駐可能(?)な温度で最大でも40℃くらいでしょうか。
      筐体は市販品で通風口付きのものもありますが、安価な通風口なしのものを使う
      ことが多いと思います。その場合ΔT=10〜20℃くらいが想定されます。
      なのでTa=60℃くらいで計算すれば問題ないと思われます。

      ただし、大容量の電源装置やパワーアンプの場合はもっと慎重な検討が必要です。
      放熱器を筐体の外に出すとか(これならTo=Ta)、強制空冷するとかの対策が
      必要になるでしょう。

    5. θjcと許容されるジャンクション温度(Tj)をデータシートから調べる
    6. データシートに記載された許容ジャンクション温度(Tj)を熱計算に
      そのまま使うのは危険です。通常0.8倍くらいで計算します。
      例えば、データシート記載の値が150℃ならTj=150 * 0.8 = 120℃
      で計算します。

    7. θchを見積もる
    8. 前述の「 半導体ケース〜ヒートシンク間の熱抵抗」を参照してください。

    9. 許容されるθhaを計算する
    10. 前項によりθchを見積ればθhaの許容範囲は下記の式となります。
      θha < (Tj - Ta) / Pmax - θjc -θch

    11. 許容されるθhaの仕様を満足するヒートシンクを選定する
    12. 仕様を満足するヒートシンクが見つからない場合は(理論的な限界がある)
      強制空冷するか、Pmaxが小さくなるよう電気的な仕様を見直すことになります。
      手順を逆にしてθhaを決めてからPmaxを決めるのも一案でしょう。

  12. 関連項目

    1. 今のところ(?)なし。

  13. 今後の課題

    1. メーカーの製品では主流となった表面実装部品ではピン(足)からプリント基板の
      銅箔を経由して放熱することが多いので、その場合θjcを使った熱設計は出来ません。
      電子工作の観点からの検討は必要になったとき改めて行います。

  14. 参考文献

    1. パワーサプライ設計と製作(昭和57年(1982) 第3版) 3-6 放熱設計 西田和明、 CQ出版社
    2. 実用電源回路 設計ハンドブック(2002年 第21版) 第5章 シリーズ・レギュレータ設計ノウハウ、
      戸川治朗著、CQ出版社
    3. トランジスタ技術SPECIAL はじめての回路熱設計テクニック(2022) 第21章 3端子レギュレータからの
      ヒートシンク放熱入門 馬場清太郎、CQ出版社
    4. 実用電子回路設計ガイド(2002 第16版) F.3 放熱設計、見城尚志・高橋久共著、総合電子出版


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