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トランジスタのスイッチ動作の基本


本ページ作成。(2025/06/30)

  1. 回路の機能

  2. トランジスタがスイッチのようにONとOFFの動作をします。
    トランジスタ・スイッチのON/OFFは入力電圧Vi(または入力電流)により制御します。
    また、トランジスタには電流増幅作用があるため、少ない電流で大きな電流を
    ON/OFF制御出来ます

  3. 回路図


  4. 回路の動作原理


  5. 簡単な設計例

    1. 設計条件。
      1. 回路構成
      2. 電源電圧(Vcc): 5[V]
      3. ON状態(飽和時)のコレクタ電流(Ic): 1[mA]
      4. 入力電圧(Vi)
        • Hレベル: Vcc
        • Lレベル: 0
      5. トランジスタの直流電流増幅率(hFE): 70〜140

    2. RCの決定。(誤差を考えない)
    3. トランジスタがOFF状態のときは電流が流れないので、ON状態の条件で決定します。
      ON状態のときはコレクタ〜エミッタ間電圧はほぼ0(≒VCE(sat))ですので
      RC両端の電圧はVccとなります。設計条件より、このときのコレクタ電流Icは
      1[mA]ですので、コレクタ抵抗Rcは
      Rc = Vcc / Ic = 5 / 0.001 = 5[kΩ]

      E6系列から選定すると Rc = 4.7[kΩ]ということになるでしょう。
      このときのIcを改めて計算すると
      Ic = Vcc / Rc = 5 / 4700 ≒ 1.06[mA]

    4. RBの決定。(誤差を考えない)
    5. Icが決定したので、トランジスタのhFEが決まればIBが決定できます。
      hFEはバラツキの大きなパラメータですが、今回は設計条件より70〜140です。
      トランジスタを確実に飽和されるためのベース電流の最小値を求める条件は
      hFEが最小となる70のときなので、
      IB = Ic / hFE(min) = 1.06[mA] / 70 ≒ 15.1[μA]

      となります。しかし、この値はトランジスタを飽和させるための最低限の電流です。
      トランジスタを確実に飽和されるためには、この値の2〜10倍のベース電流が流れる
      ようにRBを決定します。以下、10倍で計算します。
      トランジスタをONさせるためのViの電圧は設計条件よりVi = Vcc =5.0[V]でしたので
      トラジスタのベース〜エミッタ電圧(VBE)を0.7[V]とすれば
      RB = (Vi - VBE) / IB = (Vcc - VBE) / IB = (5.0 - 0.7) / (15.1[μA] * 10) ≒ 28,477[Ω]

      となります。ベース電流を飽和させるために必要な値の10倍で計算したので
      少しくらい小さくなってもよいので、RBは計算値の28,477[Ω]より多少
      大きいRB = 33[kΩ]とします。このとき、IB
      IB = (Vi - VBE) / RB = (5.0 - 0.7) / 33,000 ≒ 130[μA]

      となり、トランジスタを飽和させるために必要なベース電流:15.1[μA]の約8.6倍なので
      十分トランジスタを飽和(ON)することができます。

    6. 誤差の影響を検討する
    7. ここまでの設計では誤差がないものとして計算を進めてきました。
      しかし、実際には電源電圧(Vcc)と各抵抗値には誤差が伴います。
      誤差があってもきちんと動作するか検討します。
      具体的には、電源電圧(Vcc)と各抵抗値に±5%の誤差があった場合で検討します。
      まず、コレクタ電流(Ic)です。
      IC(max) = VCC(max) / RC(min) = (5 * 1.05) / (4700 * 0.95) ≒ 1.18[mA]
      IC(min) = VCC(min) / RC(max) = (5 * 0.95) / (4700 * 1.05) ≒ 0.96[mA]

      hFE=70でしたので
      IB(max) = IC(max) / hFE = 1.18[mA] / 70 ≒ 16.9[μA]
      IB(min) = IC(min) / hFE = 0.96[mA] / 70 ≒ 13.7[μA]

      これが最低限必要なベース電流の値です。
      一方、実際のベース電流のバラつきはViとRBが5%づつ誤差があるとすると
      IB(max) = (Vi(max) - VBE) / RB(min) = {(5.0 * 1.05) - 0.7} / (33,000 * 0.95) ≒ 145[μA]
      IB(min) = (Vi(min) - VBE) / RB(max) = {(5.0 * 0.95) - 0.7} / (33,000 * 1.05) ≒ 117[μA]

      となりますが、トランジスタをONさせるための必要ベース電流の8.5〜8.6倍となり
      問題ないことが判りました。

      結局のところ、今回の回路構成においてはVccや抵抗器の誤差を考慮する必要は
      なかったことになります。これはトランジスタを飽和させるベース電流を
      最低限の2〜10倍で設計したからだと思いますが、いつもこうなるかは一考を要します。

      一方、一般的に深く飽和させるとスイッチング速度が低下します。
  6. 負荷の応用

  7. トランジスタ・スイッチの負荷は、抵抗である必要はありません。
    典型的な例をいくつかあげます。

    1. 発光ダイオード(LED)
    2. トランジスタ・スイッチによりLEDの点灯/消灯を制御する回路です。
      抵抗RDはLED点灯時の電流制限抵抗です。


    3. リレー
    4. 直流リレー(Ry)のON/OFFを制御する回路です。
      トランジスタにパワー・トランジスタを使うと、電流の大きなリレーも
      制御出来ます。リレーなどのインダクタンスを制御する場合、OFFになる瞬間
      インダクタンスの両端に大きな電圧が発生し、トランジスタを破損する危険が
      あります。これを防ぐために、ダイオードやCR(コンデンサーと抵抗)による
      サージ・キラーが必要になることが多いです。


    5. 直流モーター
    6. 基本的にはリレーと同じすが、このままではON/OFFのみで逆回転が出来ません。
      制御信号(Vi)をPWM(パルス・ワイズ・モジュレーション)してデューティー比を
      変えるとモーターの回転速度を変えることも出来ます。
      逆回転させるためにはモーターの電圧を逆方向にかける必要があるため、
      いわゆるH型回路にする必要がありますが、その場合はトランジスタより
      パワーMOS FETの方が適しています。


    7. ステッピング・モーター
    8. 直流モーターと同じ回路が相数分必要になります。
  8. 次段の回路が接続されるとき

  9. パルス回路やディジタル回路では、次段の入力インピーダンスは一般的に、
    HレベルのときとLレベルのときとでは異なります。

    1. L出力時、次段から流れ込む電流
    2. 次段の入力インピーダンスをRL(L)とします。
      トランジスタのコレクタに流れ込む電流はIcの他に負荷側からIL(L)
      流れ込むため、増加します。ので、トランジスタの許容電流に注意します。
      それに伴い飽和電圧(VCE(SAT))がわずかに上昇する可能性もあります。


    3. H出力時、次段に流れ出す電流。
    4. 次段の入力インピーダンスをRL(H)とします。
      トランジスタは遮断状態ですのが、電流Icは全て次段側の電流IL(H)となります。
      これに伴い、VoはVccより低下します。
      下図の場合 Vo = RL(H) / (RC + RL(H)) * Vcc
      次段のHレベルの電圧(min)が規定されている場合、規定を満足するかRcの検討が必要です。


    5. 容量負荷による立ち上がり時間の遅延増大。
    6. 次段の入力に容量性の負荷(C)があると出力波形(Vo)の立上がりが遅れます。
      トランジスタがONとなりCの電荷が0の状態で、トランジスタがOFFになると
      コンデンサーの電荷は抵抗Rcを経由して充電されるのでVoはすぐには上昇しません。
      このCには配線容量なども含まれるので、たかだか数pFの場合でもVoがON/OFFする周期が
      短い場合、立上がりの遅れが無視出来なくなります。


      トランジスタがOFFからONに遷移するときはコンデンサーの電荷がトランジスタを
      経由して放電するので立ち下がりは一般的に高速です。


      以上の現象を波形でみると下図のようになります。


  10. 前段の回路が接続されるとき

  11. 信号の極性を反転させる必要性からトランジスタ・スイッチを2段接続するなどは
    あるある回路です。二段目のスイッチ回路から見た、前段のスイッチ回路の影響を
    検討します。

    1. H入力時、前段から流れ込む電流
    2. 前段の出力インピーダンスをRS(H)とします。
      トランジスタのベースに流れ込む電流(IB)はRBとRS(H)
      直列回路経由となるため、トランジスタを十分飽和させられるIBが流れるか
      検討が必要です。


    3. L入力時、前段から流れ込む電流。

    4. 前段がLレベルを出力している場合でも0.1〜1.0[V]くらいの電圧が残っている場合が
      があります。テスターでViを図るとほとんど0[V]なので正常に見えます。
      トランジスタを増幅に使う場合、ベース〜エミッタ間電圧(VBE)は0.6〜0.7[V]くらい
      なのでViが0.5[V]位あると急激にコレクタ電流Icが流れ始め、Trが遮断状態から能動状態に
      移行しVoが低下する恐れが出てきます。


      具体的な事例が下図です。
      前段のトランジスタが確実に飽和し、Viが十分低くなるよう注意します。

  12. トランジスタ・スイッチの入出力特性


  13. 今後の課題

  14. トランジスタ・スイッチを使用する場合の注意事項について、いくつか定性的に記載しましたが
    LEDのON/OFF制御程度だとあまり心配はいりません。(^^;
    システムの観点からの直流レベル設計(いわゆるワースト・ケース設計)や、トランジスタを高速に
    スイッチングさせる場合の解析については、別途検討します。

  15. 参考文献


  16. 関連項目

    1. 電子回路− トランジスタのエミッタ接地における静特性


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