JH8CHUのホームページ> トランジスタ・パルス回路の設計 >トランジスタによるインバータ(1)

トランジスタによるインバータ(1)


工事中(2015/01/17)
  1. 回路の機能

    トランジスタがスイッチのようにONとOFFの動作をします。
    トランジスタ・スイッチのON/OFFは電圧または電流により制御します。
    また、トランジスタのスイッチ動作を利用してディジタル信号の
    HighレベルとLowレベルの反転をすることが出来ます。
    このような反転動作をする回路をインバータと言います。

  2. 設計仕様


  3. 回路図


  4. 回路の動作原理【この項目は移動予定】


  5. 回路定数の設計

    1. Rcの決定
        (1)トランジスタOFF動作時
        出力電圧レベルがHigh、すなわちトランジスタがOFF状態のとき、
        トランジスタTrには電流は流れません。従って、出力電流Iohは下図のように
        全てコレクタ抵抗Rc経由で流れ出します。出力電圧をVohとすれば
        Vohは電源電圧Vccよりコレクタ抵抗での電圧降下分低い電圧となるため、
        Voh = Vcc - Rc*Ioh

        となります。
        ここで、Vohが最も低くなる条件、すなわちVoh(min)となる条件は下記です。

        ・Vccが最低電圧になったとき。すなわちVcc(min)のとき。
        ・Iohが最も大きくなったとき。すなわちIoh(max)のとき。
        ・抵抗器の誤差が大きい方で最大になったとき。すなわちRc(max)のとき。

        従ってVoh(min)は以下の式となります。
        Voh(min) = Vcc(min) - Rc(max)*Ioh(max)

        このVoh(min)の式の中で、Voh(min)、Vcc(min)、Ioh(max)は設計仕様で与えられています。
        残りはRc(max)ですが、上式を変形すると
        Rc(max) = (Vcc(min) - Voh(min))/Ioh(max)

        となります。ここで公称値Rcの抵抗器の誤差率をξとすれば上式は更に、
        Rc*(1+ξ) ≦ (Vcc(min) - Voh(min))/Ioh(max)

        となり、結局、
        Rc ≦ (Vcc(min) - Voh(min))/(Ioh(max)*(1+ξ))

        の条件を満たせば、Voh(min)を保障することが出来ます。


        (2)トランジスタON動作時
        出力電圧レベルがLow、すなわちトランジスタがON状態のとき、
        トランジスタのコレクタに流れ込む電流はコレクタ抵抗Rcからの電流と
        出力端子から流れ込む電流Iolの和となります。すなわち
        Ic = Vcc/Rc + Iol

        となります。ここで、Icが最も大きくなる条件、すなわちIc(max)となる条件は下記です。

        ・Vccが最大電圧になったとき。すなわちVcc(max)のとき。
        ・Iolが最も大きくなったとき。すなわちIol(max)のとき。
        ・コレクタ抵抗Rcの値が小さくなる方向で誤差が最大になったとき。すなわちRc(min)のとき。

        従ってIc(max)は以下の式となります。
        Ic(max) = Vcc(max)/Rc(min) + Iol(max)・・・・・@

        Ic(max)をコレクタ電流の許容値Icm以下にするためには、
        Icm ≧ Ic(max)
        故に
        Icm ≧ Vcc(max)/Rc(min) + Iol(max)

        この式の中で、Vcc(max)、Iol(max)、Icmは設計仕様で与えられています。
        残りはRc(min)ですが、上式を変形すると
        Rc(min) ≧ Vcc(max)/{Ic(max) - Iol(max)}

        となります。ここで公称値Rcの抵抗器の誤差率をξとすれば上式は更に、
        Rc*(1-ξ) ≧ Vcc(max)/{Ic(max) - Iol(max)}

        となり、結局、
        Rc ≧ Vcc(max)/[{Ic(max) - Iol(max)}*(1-ξ)]

        の条件を満たすRcを選定すれば、Icm ≧ Ic(max)の条件を満たすことが出来ます。


        ちなみに、一般的にVol(max)>VCE(sat)です。
        もし、この関係が成り立たない場合は、VCE(sat)の小さいトランジスタ
        を選定し直すか、Vol(max)の設計仕様を変更する必要があります。

        以上の式からRcの最大値と最小値が決まります。すなわち
        Vcc(max)/[{Ic(max) - Iol(max)}*(1-ξ)] ≦ Rc ≦ (Vcc(min) - Voh(min))/(Ioh(max)*(1+ξ))

        となりますので、この範囲内の値でRcを選定します。
        通常は、常備品の中から選定することになるでしょう。
        もし、この条件を満たすRcが存在しない場合は、使用するトランジスタを変更して
        Ic(max)を見直すか、最悪、設計仕様を変更する必要があるでしょう。

    2. RBの決定
        RBの選定は意外とやっかいです。
        最初にRcは決めてあるものとします。

        (1)トランジスタON動作時


        インバータの出力電圧が確実にVol(max)以下になるようなIB
        流れるようにRBを選定すればよいのですが、通常は、Vol(max)より
        低い電圧となるなるようにトランジスタが飽和するようなベース電流を計算します。
        トランジスタの特性より
        Ic = hFE * IB

        の関係がありますが、コレクタ電流の最大値はIc(max)なので、
        トランジスタを飽和させるためには
        Ic(max) ≦ hFE * IB
        とする必要があります。
        この式で、hFEはいろいろな値にバラツキつきます。
        また、IBも条件によって変化します。このため、以上の条件が
        変わってもトランジスタを飽和させるめたには
        Ic(max) ≦ hFE(min) * IB(min)・・・・・A

        となる必要があります。
        一方、回路構成より
        IB = (Vih - VBE)/RB

        となります。IBが最も小さくなる、すなわちIB(min)となる条件は

        ・入力電圧Vihが最少になったとき。すなわちVih(min)のとき。
        ・ベース〜エミッタ間電圧VBEが最大になったとき。 すなわちVBE(max)のとき。
        ・ベース抵抗RBの値が大きくなる方向で誤差が最大になったとき。 すなわちRB(max)のとき。

        です。従って、
        IB(min) = {Vih(min) - VBE(max)}/RB(max)

        となります。この式と@式をA式に代入すると
        Vcc(max)/Rc(min) + Iol(max) ≦ hFE(min) * {(Vih(min) - VBE(max)}/RB(max)

        整理すると、
        RB(max) ≦ (Vih(min) - VBE(max)) * hFE(min) / {Vcc(max)/Rc(min) + Iol(max)}

        ここで抵抗器の誤差をξとすると上式は、
        RB*(1+ξ) ≦ (Vih(min) - VBE(max)) * hFE(min) / [Vcc(max)/{Rc*(1-ξ)} + Iol(max)]・・・・・B

        となります。この式の中で問題はVBE(max)ですが、シリコン・トランジスタの場合、
        VBE=0.6〜0.8V(常温)程度なので、VBE(max)=0.9〜1.0Vとすれば問題ないでしょう。

        (2)トランジスタOFF動作時
        トランジスタをOFF状態にするためには入力電圧Vilを0[V]にすればよいのですが、
        例えば、前段にインバータの回路があった場合、その回路の出力する"L"レベルは
        トランジスタの飽和電圧であるため、0.1〜0.3[V]位になり理想的に0[V]とはなりません。
        ここで、下図のように本回路構成におけるインバータを2段接続した場合を考えます。
        初段のTr1はON状態、後段のTr2はOFF状態です。


        Volはトランジスタの飽和電圧であるため、Vol=VCE(sat)となり、通常
        0.1〜0.3[V]位の電圧が残ります。一方、Tr2のベース電圧VBEですが、
        トランジスタが能動状態のときはVBE=0.6〜0.8[V]と考えますけれど、
        しかし、トランジスタが遮断状態に近づくと下図のようにVBE
        0[V]に近づいていきます。


        そうすると、Volが0.1〜0.3[V]位の電圧であると、IBは0[mA]とはならず
        いくらか電流が流れることになります。IBが流れるとVBE
        いくらか上昇します。また、IBが流れることにより、hFE倍の
        コレクタ電流Icが流れます。当然、このIcによりRcでは電圧降下が発生し
        VolをVccから低下させることになります。この影響はRB
        選定によっては全く無視できない値となります。そして机上の計算の段階で
        VBEがどの程度になるかを計算することは一般的に困難であるため、
        例えば、最悪VBE=0[V](つまり、この条件ではIB
        最大になる)とした場合、RBはかなり大きな値が必要となり、Bの式と
        両立しなくなります。

        以下、具体的な計算式を検討します。


        まず、出力電圧Vohが設計仕様のVoh(min)となる条件を考えます。回路構成より
        Voh = Vcc - Rc * (Ic + Ioh)

        となりますが、Voh≧Voh(min)でなければならないため、
        Voh(min) ≦ Vcc - Rc * (Ic + Ioh)

        ここで、Vohが最も小さくなる条件は

        ・Vccが最小になったとき、すなわちVcc(min)のとき。
        ・Rcが最大になったとき、すなわちRc(max)のとき。
        ・Icが最大になったとき、すなわちIc(max)のとき。
        ・Iohが最大になったとき、すなわちIoh(max)のとき。

        です。従って
        Voh(min) ≦ Vcc(min) - Rc(max) * {Ic(max) + Ioh(max)}

        この式を変形すると
        Ic(max) ≦ {Vcc(min) - Voh(min)} / Rc(max) - Ioh(max)・・・・・C

        一方、トランジスタの特性より
        Ic = hFE * IB

        です。よって
        Ic(max) = IB(max) * hFE(max)
        ですので、この式をC式に代入すると
        IB(max) * hFE(max) ≦ {Vcc(min) - Voh(min)} / Rc(max) - Ioh(max)

        となります。この式を整理すると
        RB(min) ≧ {Vil(max) - VBE(min)} * hFE(max) / [{Vcc(min) - Voh(min)}/Rc(max) - Ioh(max)]

        抵抗器の誤差をξとすれば、RB(min)=RB(1-ξ) Rc(max)=RB(1+ξ)となるため、
        これらを代入して整理すると、
        RB ≧ {Vil(max) - VBE(min)} * hFE(max) / 〔[{Vcc(min) - Voh(min)}/{Rc(max)*(1+ξ)} - Ioh(max)]*(1-ξ)〕

    3. 回路構成上の問題点
        この回路の問題点は、入力電圧Vil(max)が低いことです。

        定性的に考えると、トランジスタを確実に飽和されるためには、
        ベース電流IBを大きくする必要があるため、RBは小さくしなければなりません。
        一方、Vil(max)を高くするためにはRBを大きくする必要があります。
        このふたつの条件を同時に満足するRBが一般的には存在しないのです。
        これはある意味当然で、実現したい設計仕様がふたつあるのに、
        設計の自由度はひとつしかないため(すなわちRBの選定)、
        解が一般的には存在しなくなってしまうのです。
        従って、この回路を設計するための現実的な手順は、まずトランジスタを
        確実にONするようにRBを決めます。
        その結果、Vil(max)が決まります。そして、回路仕様として結果的に実現可能な
        Vil(max)を設定することになります。しかし、この結果、実現出来るVil(max)
        はせいぜい0.2〜0.3Vくらいです。この値は、前段の回路のVol(min)と
        かなり近い値です。すなわち、この回路は入力の"L"レベルにおける
        ノイズ・マージンを確保するのが難しい回路と言えます。

  6. 課題

    1. スイッチング特性(AC特性)の検討

  7. 参考文献


  8. 関連項目

    1. エミッタ接地回路におけるトランジスタの静特性


JH8CHUのホームページ> トランジスタ・パルス回路の設計> トランジスタによるインバータ(1)


Copyright (C)2015 Masahiro.Matsuda(JH8CHU), all rights reserved.