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2端子対回路 (Y、Z、Hパラメータ)


本ページ作成。(2024/03/23)

  1. 2端子対回路

  2. 電子回路では、回路網をブラック・ボックスとみなし、入力端子対と出力端子対との
    2対からなる2端子回路(4端子回路とも言う)として扱うことをしばしば
    行います。2端子対回路の一般論は電気回路学で学びますが、
    入力電圧・入力電流・出力電圧・出力電流の関係を2×2の行列で表現します。
    ここではY行列、Z行列、H行列について記載します。
    (行列の代わりにパラメータと呼ぶこともあります。)

  3. Yパラメータ

  4. 2端子対を持つ線形回路の端子1-1'に電源E1を、端子2-2'に電源E2
    接続した状態を考えます。
    端子1-1'間の電圧をV1、端子1に流れ込む電流をI1
    端子2-2'間の電圧をV2、端子1に流れ込む電流をI2
    とします。ここで、E1、E2、V1、 I1、V2、I2は、一般的には
    フェーザ表示です。


    回路全体が線形なので、重ね合わせの理を使って、I1、I2 を求めます。

    まず、E2 = 0としたとき、端子1に流れる電流をI1'
    端子2に流れる電流をI2'とすれば、I1'、I2'は V1に比例するので、
    比例定数をY11、Y21として下記の式が成り立ちます。
    I1' = Y11 * V1
    I2' = Y21 * V1


    次に、E1 = 0としたとき、端子1に流れる電流をI1"
    端子2に流れる電流をI2"とすれば、I1"、I2"は V2に比例するので、
    比例定数をY12、Y22として下記の式が成り立ちます。
    I1" = Y12 * V2
    I2" = Y22 * V2


    E1とE2が同時に存在したときの電流、I1、 I2
    重ね合わせの理
    により下記の式となります。
    I1 = I1' + I1" = Y11 * V1 + Y12 * V2
    I2 = I2' + I2" = Y21 * V1 + Y22 * V2

    これを行列の式で表すと、


    Y11、 Y12、Y21、Y22は電圧に かけると電流になる比例定数なので、
    アドミタンスになります。
    そして2×2型の行列YをYパラメータと呼びます。


    Yパラメータが純抵抗(コンダクタンス)の場合は小文字を用います。


  5. Yパラメータの等価回路

  6. yパラメータが与えられると
    i1 = y11 * v1 + y12 * v2  ・・・・・ @
    i2 = y21 * v1 + y22 * v2  ・・・・・ A

    の式が成り立ちます。ここではYパラメータは純抵抗として小文字で表しています。
    この式から等価回路を導きます。
    @式より電流i1は、電流(y11 * v1)と 電流(y12 * v2)の和です。
    @式の第1項(y11 * v1)は電圧v1に アドミタンスY11[S]
    の抵抗(つまり抵抗値は1/y11[Ω])を接続したときに流れる電流ですので、
    下図のように1-1'端子間に接続した抵抗y11[S]で表すことが出来ます。
    第2項は、2次側の電圧V2に比例した 制御電流源とします。


    A式より2次側の電流i2についても同様に考えると、yパラメータの
    等価回路は一応下図で表せます。


    しかし、この等価回路は1次側と2次側が分離していて使いずらいので、
    以下の手順で変形します。

    まず、@式の第2項を変形します。
    y12 * v2 = -y12 * (v1 - v2) + y12 * v1

    この式の第1項は、下図のようにa点とb点との間にアドミタンス-y12
    挿入したときa→bに流れる電流です。


    第2項は、y11と並列に接続した抵抗y12[S]で表すことが出来ます。
    式の変形により、1次側の制御電流源 は、下図のようにふたつの抵抗に変形する
    ことが出来ます。a-b間の抵抗y12にはマイナスがつきますが、これはy12自体が
    マイナスなので、マイナスをつけることでプラスになるからです。


    次に2次側を変形します。A式の第1項を以下のように変形します。
    1次側の等価回路の変形により、b点から-y12 * (v1 - v2) の電流が
    流れ込んでくることを考慮して、
    (下図では、a-b間の電圧の極性の取り方を逆にしていることに注意)
    y21 * v1 = -y12 * (v2 - v1) + (y21 - y12) * v1 + y12 * v2

    この式の第1項は-y12をb→aに流れる電流、第2項は 制御電流源に置換え、
    第3項は、y22と並列に接続した抵抗y12[S]で表すことが出来ます。


    以上の変形から、下図の等価回路が得られます。
    これをYパラメータにおけるπ(パイ)型等価回路といいます。
    (抵抗はアドミタンス表示なので、並列接続の合成抵抗は加算となります。念のため)


  7. Zパラメータ



  8. 2端子対回路において
    V1、V2を従属変数、I1、I2を独立変数 としたとき、
    Z11、 Z12、Z21、Z22を比例定数として
    下記の式でV1、V2を表します。
    V1 = Z11 * I1 + Z12 * I2
    V2 = Z21 * I1 + Z22 * I2

    これを行列の式で表すと、


    Z11、 Z12、Z21、Z22は電流に かけると電圧になる比例定数なので、
    インピーダンスになります。
    そして2×2型の行列ZをZパラメータと呼びます。


    Zパラメータが純抵抗の場合は小文字を用います。


  9. Zパラメータの等価回路

  10. zパラメータが与えられると
    v1 = z11 * i1 + z12 * i2  ・・・・・ B
    v2 = z21 * i1 + z22 * i2  ・・・・・ C

    の式が成り立ちます。ここではZパラメータは純抵抗として小文字で表しています。
    この式からただちに下記の等価回路が導けます。


    しかし、この等価回路も1次側と2次側が分離していて使いずらいので、
    以下の手順で変形します。方針としては下図のように(i1+i2)
    の項を生成するように変形します。


    まず、B式の第2項を変形します。
    z12 * i2 = z12 * (i1 + i2) - z12 * i1
    この式の第1項は抵抗z12に電流(i1+i2)が流れたときの 電圧を表します。
    第2項は抵抗-z12に電流i1が流れたときの電圧を表しますので、
    1次側の電圧源は下図のように表せます。


    次に、C式の第1項を変形します。
    z21 * i1 = z12 * (i1 + i2) + (z21 - z12) * i1 - z12 * i2
    この式の第1項は抵抗z12に電流(i1+i2)が流れたときの 電圧を表します。
    第2項は比例定数が(z21-z12)で電流i1に比例する
    制御電圧源 とします。第3項はz22と直列になる抵抗の両端の電圧となります。
    以上より、2次側の電圧源は下図のように表せます。


    以上の変形から、下図の等価回路が得られます。
    これをZパラメータにおけるT型等価回路といいます。


  11. Hパラメータ



  12. 2端子対回路において
    V1、I2を従属変数、I1、V2を独立変数 としたとき、
    H11、 H12、H21、H22を比例定数として
    下記の式でV1、I2を表します。
    V1 = H11 * I1 + H12 * V2
    I2 = H21 * I1 + H22 * V2

    何とも覚えずらい式で往生してしまいますが(笑)、バイポーラ・トランジスタを
    等価回路で表現するとき、Hパラメータがもっともトランジスタの特徴を表します。
    (バイポーラ・トランジスタを使うとき、いやでも覚えてしまいます。笑)
    これを行列の式で表すと、


    H11はインピーダンス、 H12は無名数、
    H21は無名数、H22はアドミタンスになります。
    そして2×2型の行列HをHパラメータと呼びます。


    フェーザ表示する必要がない場合は小文字を用います。


  13. Hパラメータの等価回路

  14. hパラメータが与えられると
    v1 = h11 * i1 + h12 * v2  ・・・・・ D
    i2 = h21 * i1 + h22 * v2  ・・・・・ E

    の式が成り立ちます。ここではHパラメータは純抵抗として小文字で表しています。
    この式からただちに下記の等価回路が導けます。


  15. 参考文献

    1. 簡明電子回路入門(1980 初版) 第4章 4端子回路理論、矢部初男著、槇書店

  16. パラメータの相互変換(計算式)

  17. 計算の手順は、
    (1)変換前のパラメータから式を作る
    (2)変換前後の独立変数と従属変数を意識しながら式を変形する。
    (3)変換後の式の形になったら、係数から変換式を取り出す。
    と、言ったところです。

    1. ZパラメータからYパラメータへの変換
    2. Zパラメータの式は下記でした。
      v1 = z11 * i1 + z12 * i2  ・・・・・ (1)
      v2 = z21 * i1 + z22 * i2  ・・・・・ (2)

      Yパラメータの従属変数はi1、i2なので、ここではi2を 消去するために
      (1)式にz22をかけ、(2)式にz12をかけて辺々引きます。
      z22 * v1 - z12 * v2 = (z11 * z22 - z12 * z21) * i1

      凛 = z11 * z22 - z12 * z21と 置換えて、i1の式に変形すると
      i1 = (z22 / 凛) * v1 - (z12 / 凛) * v2

      Yパラメータの式と比較すると
      y11 = z22 / 凛
      y12 = -z12 / 凛

      を得ます。次に、i1を消去するため
      (1)式にz21をかけ、(2)式にz11をかけて辺々引きます。
      z12 * v1 - z11 * v2 = -(z11 * z22 - z12 * z21) * i2

      凛 = z11 * z22 - z12 * z21と 置換えて、i2の式に変形すると
      i2 = -(z12 / 凛) * v1 + (z11 / 凛) * v2

      Yパラメータの式と比較すると
      y21 = -z12 / 凛
      y22 = z11 / 凛

      を得ます。

    3. HパラメータからYパラメータへの変換
    4. Hパラメータの式は下記でした。
      v1 = h11 * i1 + h12 * v2  ・・・・・ (3)
      i2 = h21 * i1 + h22 * v2  ・・・・・ (4)

      Yパラメータの従属変数はi1、i2ですが、(3)式を変形すると
      ただちにi1の式が得られます。
      i1 = 1 / h11 * v1 - (h12 / h11) * v2  ・・・・・ (3')

      Yパラメータの式と比較すると
      y11 = 1 / h11
      y12 = -h12 / h11

      を得ます。次に、i1を消去するため(3')式を(4)式に代入します。
      i2 = h21 * {1 / h11 * v1 - (h12 / h11) * v2} + h22 * v2
       = (h21 / h11) * v1 - (h12 * h21 / h11) * v2 + h22 * v2
       = (h21 / h11) * v1 + {(h11 * h22 - h12 * h21) / h11)} * v2

      冑 = h11 * h22 - h12 * h21と 置換えると
      i2 = (h21 / h11) * v1 - (冑 / h11) * v2

      Yパラメータの式と比較すると
      y21 = h21 / h11
      y22 = 冑 / h11

      を得ます。

    5. YパラメータからZパラメータへの変換
    6. Yパラメータの式は下記でした。
      i1 = y11 * v1 + y12 * v2  ・・・・・ (5)
      i2 = y21 * v1 + y22 * v2  ・・・・・ (6)

      Zパラメータの従属変数はv1、v2なので、ここではv2を 消去するために
      (5)式にy22をかけ、(6)式にy12をかけて辺々引きます。
      y22 * i1 - y12 * i2 = (y11 * y22 - y12 * y21) * v1

      凉 = y11 * y22 - y12 * y21と 置換えて、v1の式に変形すると
      v1 = (y22 / 凉) * i1 - (y12 / 凉) * i2

      Zパラメータの式と比較すると
      z11 = y22 / 凉
      z12 = -y12 / 凉

      を得ます。次に、v1を消去するため
      (5)式にy21をかけ、(6)式にy11をかけて辺々引きます。
      y21 * i1 - y11 * i2 = -(y11 * y22 - y12 * y21) * v2

      凉 = y11 * y22 - y12 * y21と 置換えて、v2の式に変形すると
      v2 = -(y21 / 凉) * i1 + (y11 / 凉) * i2

      Zパラメータの式と比較すると
      z21 = -y21 / 凉
      z22 = y11 / 凉

      を得ます。

    7. HパラメータからZパラメータへの変換
    8. Hパラメータの式は下記でした。(再掲)
      v1 = h11 * i1 + h12 * v2  ・・・・・ (3)
      i2 = h21 * i1 + h22 * v2  ・・・・・ (4)

      Zパラメータの従属変数はv1、v2ですが、(4)式を変形すると
      ただちにv2の式が得られます。
      v2 = -(h21 / h22) * i1 + 1 / h22 * i2  ・・・・・ (4')

      Zパラメータの式と比較すると
      z21 = -h21 / h22
      z22 = 1 / h22

      を得ます。次に、v2を消去するため(4')式を(3)式に代入します。
      v1 = h11 * i1 + h12 * {-(h21 / h22) * i1 + 1 / h22 * i2}
       = h11 * i1 - (h12 * h21 / h22) * i1 + (h12 * / h22) * i2
       = (h11 * h22 - h12 * h21) / h22 * i1 + (h12 / h22) * i2

      冑 = h11 * h22 - h12 * h21と 置換えると
      v1 = (冑 / h22) * i1 + (h12 / h22) * i2

      Zパラメータの式と比較すると
      z11 = 冑 / h22
      z12 = h12 / h22

      を得ます。

    9. YパラメータからHパラメータへの変換
    10. Yパラメータの式は下記でした。(再掲)
      i1 = y11 * v1 + y12 * v2  ・・・・・ (5)
      i2 = y21 * v1 + y22 * v2  ・・・・・ (6)

      Hパラメータの従属変数はv1、i2ですが、(5)式を変形すると
      ただちにv1の式が得られます。
      v1 = (1 / y11) * i1 - (y12 / y11) * v2  ・・・・・ (5')

      Hパラメータの式と比較すると
      h11 = 1 / y11
      h12 = -y12 / y11

      を得ます。次に、v1を消去するため(5')式を(6)式に代入します。
      i2 = y21 * v1 + y22 * v2
       = y21 * {(1 / y11) * i1 - (y12 / y11) * v2} + y22 * v2
       = (y21 / y11) * i1 - (y12 * y21 / y11) * v2 + y22 * v2
       = (y21 / y11) * i1 + (y11 * y22 - y12 * y21) / y11 * v2

      凉 = y11 * y22 - y12 * y21と 置換えると
      i2 = (y21 / y11) * i1 + (凉 / y11) * v2

      Hパラメータの式と比較すると
      h21 = y21 / y11
      h22 = 凉 / y11

      を得ます。

    11. ZパラメータからHパラメータへの変換
    12. Zパラメータの式は下記でした。(再掲)
      v1 = z11 * i1 + z12 * i2  ・・・・・ (1)
      v2 = z21 * i1 + z22 * i2  ・・・・・ (2)

      Hパラメータの従属変数はv1、i2ですが、(2)式を変形すると
      ただちにi2の式が得られます。
      i2 = -(z21 / z22) * i1 + (1 / z22) * v2  ・・・・・ (2')

      Hパラメータの式と比較すると
      h21 = -z21 / z22
      h22 = 1 / z22

      を得ます。次に、i2を消去するため(2')式を(1)式に代入します。
      v1 = z11 * i1 + z12 * i2
       = z11 * i1 + z12 * {-(z21 / z22) * i1 + (1 / z22) * v2}
       = z11 * i1 + (-z12 * z21 / z22) * i1 + (z12 / z22) * v2
       = (z11 * z22 - z12 * z21) / z22 * i1 + (z12 / z22) * v2

      凛 = z11 * z22 - z12 * z21と 置換えると
      v1 = (凛 / z22) * i1 + (z12 / z22) * v2

      Hパラメータの式と比較すると
      h11 = 凛 / z22
      h12 = z12 / z22

      を得ます。

    13. パラメータ変換の一覧表
    14. 以上の計算を纏めると下記の表となります。
      行列名 Y Z H
      y11 y12  z22/凛   −z12/凛   1/h11   −h12/h11 
      y21 y22 −z21/凛 z11/凛 h21/h11 冑/h11
       y22/凉   −y12/凉  z11 z12 冑/h22 h12/h22
      −y21/凉 y11/凉 z21 z22 −h21/h22 1/h22
      1/y11 −y12/y11 凛/z22 z12/z22 h11 h12
      y21/y11 凉/y11 −z21/z22 1/z22 h21 h22
      (注)凉 = y11 * y22 - y12 * y21、 凛 = z11 * z22 - z12 * z21、 凉 = h11 * h22 - h12 * h21

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